時雨沢恵一 (電撃文庫)
10代前半の若者であるキノと、人語を話すモトラド(バイク)の二人(?)旅の物語。キノが訪れる国でのエピソードを積み重ね、短編連作のような形で話は進む。
主にキノが見たり聞いたりした情景がそのまま映し出されるような、淡々とした文章で綴られている。が、時には作者の遊び心と冒険心が混じった、ユニークな形式もあって楽しい。


キノは「旅人」と呼ばれ、国から国を渡り歩く種類の人間。「旅人」の目的はそれぞれ。国を追われてさまよう者、生まれた国に見切りをつけ、定住先を探す者、ただ観光をしたい者などなど。
キノについては年齢がはっきりと特定されておらず、性別もわざとわかりにくく描かれている。年齢も性別も出生国もすべて振り捨てて、旅人キノ。それで充分なのかもしれない。
この物語における国というのは、城壁に守られた比較的小さなもので、しかも言葉の壁がなく、中世の都市国家を思わせる。
キノが訪れる国には、それぞれに独特(ごくまっとうなものから、かなりエキセントリックなものまで)の価値観と制度があるが、それを受け入れて日々の生活を送ることの出来る人間は安全な城壁の中で生涯を終えることができる。
しかし、自国の価値観に疑問を抱き、それに順応できない人々は城壁の外へ出て身を危険にさらしつつ旅に出る。旅の中で、気に入った国を見つければそこに住むも良し、一つの国に捕らわれるのが嫌なら城壁の外に自前の家を構えるのも良し。ただし、この場合はいつ何時盗賊に襲われるかわからないので、それなりの備えが必要だが。
だからキノはパースエイダーと呼ばれる銃器とナイフで自分の身を守る。「師匠」に仕込まれたその腕前は超一級。
キノは、12才になる直前まで普通の女の子として暮らしていたが、ある旅人との出会いによって自国の価値観に疑問を抱き、それを口にしてしまったため、自分の親に殺されかけた。が、彼女をかばって殺されたのはその旅人で、直後、モトラドに助けられて国を脱出した。
その後師匠に拾われ、パースエイダーを仕込まれるが、もともと素質があったらしく、天才的な技量を発揮する。
キノたちの他にもユニークな旅人が登場して、それは師匠の若い頃の姿だったり、キノとコロシアムで決勝戦を闘ったシズとその連れである犬の陸だったり。
師匠はかつて、パースエイダーの腕を生かして用心棒兼盗賊まがいのことをして旅をしていた。もっとも、キノが彼女と出会った時にはすでに老婆になっていたのだが。
シズはある国の王の子として生まれ、いろいろあって父である王を謀殺しようと図ったが、結局はキノにその役目を取られてしまった。(1巻・コロシアム) それ以来、どこか定住できそうな国はないかと旅をしている。彼は長い刀を得物とし、殺し屋としての腕前はキノと並ぶほど。(でも勝負をすると負ける)
旅の過程でキノが何を求め、また何を見いだしたのかは明記されていないけれど、キノが生まれた国を追われた話・「大人の国」(1巻)と、旅を止めて師匠の元に戻るきっかけとなった「冬の話」(7巻)と、旅を始めた本当のいきさつが書かれている「エピローグ・何かをするために・a」(7巻)を読むと大体判る気がする。
キノが旅をする世界は徹底的に弱肉強食であり、文字通り「殺さなければ殺される」。だから人が死んだり、国が壊滅する話は日常茶飯事のごとく語られている。キノは当然その法則に従ってパースエイダーを使うし、また自らの苦い経験から、よその国に自分の価値観を持ち込まないように行動する。キノはひたすら見る人なのである。
だが、キノは「冬の話」である旅人に出会い、自分の行動規範を見つめ直すことになる(ようだ)。そして師匠の元へ帰り「もっと強くなりたいです」と言った。パースエイダーと戦闘の腕前だけなら、天才的に強いキノが、である。
もし、この物語を象徴するキーワードがあるとしたら、それは銃器を意味する「パースエイダー」だろう。パースエイダーとは、英語で言えばpersuader、意味は「説得するもの・有無を言わせぬもの(含・武器)」である。
「説得力」と書いて「パースエイダー」と読め、の世界を旅してきたキノだけれど、たぶん、彼女はパースエイダーとは別次元の強さを見つけて、それを求める事にしたのではないかと思っている。だから旅をとりあえずやめて師匠の元に戻って来たのだろう。7巻までは。
実は、このレビューを書き終わってから、8巻と9巻が出た。アニメ化もされているし、結構な人気。
(初出:2004/1/14)

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