ローズマリー・サトクリフ(訳:灰島かり)
図書館で面白そうな本はないかと、海外ファンタジーの棚を眺めていたら、ピンと来たので借りてみた。見事なまでにビンゴな本だった。


ローズマリー・サトクリフは、ローマ時代のイギリスを舞台にした作品など、歴史小説の分野で名高い作家ということで、名前だけは知っていた。
その作家が比較的低学年を対象に、白い馬の地上絵を題材にして、ケルトの一部族の物語を書いた。それがこの本である。
「イケニ族」と呼ばれ、馬と共に暮らすこの一族は、紀元前600年ぐらいにイーストアングリア地方(イギリスの南東部)から西へ移動してバークシャー付近に定住し、それから約500年後に別の部族に征服され、土地を追われたらしい。
他部族から攻撃を受ける少し前に生まれた、族長の息子ルブランには、生まれつき絵の才能がそなわっていた。彼は部族全体が囚われの身となった時、征服者のために、緑豊かな丘に白亜層の白土で巨大な馬の絵を描くことにしたのだ。自分の部族の解放と引き替えに。
その白馬は、今でも実際に見ることができる。
素晴らしいと思ったのは、史実に基づきながらも、事実をならべるだけでなく、物語性豊かな生き生きとした世界が繰り広げられていることである。
また、ケルト人の感性にも驚いた。彼らは物事の本質を抽象的に取りだして見せる能力に長けていたらしい。
たとえば、ルブランは数本の曲線によって、疾走する馬を生き生きと描いて見せる。また、青銅の縦に文様を施す職人も自然の神秘を渦巻く曲線で書き表したりする。彼らは世界の神秘を抽象的な図形に閉じこめることができるらしい。
こういった神秘を曲線ではなく音の流れとしてとらえることができれば、絵描きではなく竪琴弾きになれるわけで、つまるところ、表現方法が違うだけで、絵も音楽も同じ感性から生まれているのだ。
古いイギリスの世界に浸れるだけでなく、とてつもない発見をさせられた物語だった。
(初出:2004.1.16)

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