テリー・ケイ( 兼武進 訳)
「あ、この人お義父さんにどこか似ている」というのが、主人公サムの第一印象だった。頑固で偏屈で自分の仕事に誇りを持ち、家族を深く深く愛して大切にする、懐かしいおじいちゃん……。


80才にして妻を亡くしたサム。片足を悪くしていて移動には歩行器の助けが必要な彼のことを、子供達はみんな心配している。
 でも、サムはいたって正気だ。愛する妻を失った夫として深く悲しみ、放っておいて欲しいとも思う。だが自暴自棄には走るのではなく、静かに寂しさに耐え、墓参りをし、苗木を栽培している畑の手入れをして、誰にも見せることのない日記をつけ続ける。時には心配性の娘達をからかう茶目っ気さえ見せる。そして、どこからともなく現れた白い雌犬の世話を始める。
 サムの年ともなると、友人・知人の訃報が絶えない。初恋の人、ハッティ・ルイスの訃報をラジオで知り弔問に訪れたことをきっかけに、サムはある計画を実行に移すことにした。
 それは、誰にも内緒で100マイル離れたマディソン郡にある農業高校の同窓会に出席することだった。もしそんなことが子供達に知れたら必ず何人かがついてくる。それだけは避けたかった。彼は、自分にしか気を許さない白い犬だけを連れて自分のペースで旅をしたかった。高校のすぐ近くには、妻にプロポーズをした懐かしい場所がある。
 サムは愛用のおんぽろトラックを娘婿に整備してもらい、旧友を訪ねると偽ってマディソン郡へと出発した。もちろん、彼は途中で道に迷い、ある牧師に助けてもらうことになったり、おんぼろトラックに乗っている自分が恥ずかしくて同窓会には出そびれたり、結局嘘がバレて子供達を死ぬほど心配させたあげくにマディソン郡まで探しに来させることになったりしたのだが、なんとか目的は果たして帰ってきた。プロポーズをしたあの懐かしい川のほとり、白い犬を遊ばせながら心ゆくまで妻の思い出に浸ってきたのだ。
 それ以来サムは何かを吹っ切ったように精力的に生きる。癌が彼の身体を蝕み体の自由を奪うその日まで。
 最期の時を感じたサムは、一番可愛がっていた末の息子、ジェイムズに教える。「白い犬」の正体を。そして安らかに、妻とすでに亡くなっていた長男のもとへと旅立ったのであった。
 この物語も「12番目の天使」も妻を亡くした男の話である。二人とも同じように悲しみに暮れるが、決定的に違うものがある。それは主人公が愛する対象である。
 「12番目~」のハーディングの場合は妻と子供を亡くすことによって自分を見失ったが、一人の少年との出会いによって自分の存在を肯定できるようになった。つまり、再び自分を愛せるようになった。だからこの場合、テーマは「再生」だと考えられる。
 対するサムはどうか。彼は妻と子供たちを、自分を愛するように愛した。彼の場合、自分の存在を肯定する点については微塵のゆるぎもなく、家族に対する愛情も同様だった。それゆえこの物語で描かれているのは愛がもたらす「深い絆」である。その絆の象徴として白い犬がいる。
 原題は”TO DANCE WITH THE WHITE DOG”という。きっちり日本語に訳すなら「白い犬と踊るには」という意味だ。つまり、このタイトルは一種の問いかけであり、答えは読者自身で見つけなさい、という含みがあると解釈するのもまた良し、ではないだろうか。
(2002年に書いたブックレビューを再録)

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