ウォーカー・ハミルトン(訳:北代美和子)
「デブ」のもとを逃げ出したボビーは、コーンウォール行きのトラックに拾ってもらった。だがそのトラックは運悪くウサギを轢いたあと、スリップして横転し、運転手はほぼ即死。ボビーは無傷。呆然とするボビーのもとに小柄の男が現れた。男は死にかけた運転手はそのままに、轢かれたウサギの遺体を優しく抱いて近くの土手に埋めてやる。行く当てのないボビーは小柄の男――サマーズさんといった――の手伝い役として雇ってもらうことになった。仕事は、人間の犠牲になったすべての小さき生き物を、しかるべきやり方で弔うこと。


この物語はずっとボビーの一人称で語られる。ボビーは幼い頃に交通事故が元で知的障害を負うことになった青年。決して小難しい単語も言い回しも使用されていないのに、恐ろしくリアルな描写力。
前半では英国・コーンウォール地方の豊かな自然と、不思議な仕事をするサマーズさんの様子が中心に描かれ、後半は一転して「デブ」との壮絶な対決が描かれる。
ボビーもサマーズさんも重い過去を持つ。どちらも立場の強い人間によってさんざん傷つけられた。二人は互いの過去を語ることでいっそう強い絆を得て、サマーズさんはボビーに「デブを殺そう」と持ちかけるのだ。
訳者によると、1968年に出版されたこの物語は当時流行したヒッピーの思想を色濃く反映しているという。
「デブ」をはじめとする、「小さきもの」を傷つける人間を現代文明の象徴ととるならば、竹林の奥のあばら屋で「小さきもの」に目を向けながら生きるボビーとサマーズさんはヒッピー側の人間になる。
でも、そこまで時代背景を考えなくても、ある社会の枠からはみ出した人間が、己をはじき出した社会に対して破れるのを覚悟で復讐するという物語だと捕らえることができるし、だからこそ今改めて邦訳が出されたのだろう。
この物語は書かれてから30年近くたった1998年に映画化されている。(邦題では「コーンウォールの森へ」として2000年に公開された)
(2004.8.5)

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