フランチェスカ・リア・ブロック(金原瑞人・田中亜希子 訳)
原題は「荒野」(Wasteland)。「CATS」の原作者として有名なT.S.エリオットの「荒野」という詩に刺激を受けて書かれた物語だという。
確かに、「水死したフェニキア人水夫」など、共通したモチーフが随所にちりばめられている。
一つずつの章がとても短く、章が変わるたびに語り手が変わり、語り手ごとの時系列も微妙にずれているので、うっかりすると物語の中で迷子になりそうだ。
でも、実際のストーリーはシンプル。(かなりへビーだけど)


レックスとマリーナは兄と妹で、魂の底から愛し合っていた。兄は妹を愛したがためにピストル自殺した。マリーナを愛するウェストという青年がいて、彼は彼女が兄の死から抜け出して成長するまで、そばについていてやる。彼女の自意識が「おまえ、それはあたし」から「そしてあたし。マリーナ」と変わるまで。
流れとしてはそれだけだが、文体がかなりユニーク。
詩のような散文のような、一歩間違えば若い女の子が書き連ねそうな「ぽえむ」になってしまいそうなのに、決してそうはならず、時々、心に突き刺さる言葉がふってくる。
この作家は、アメリカの若者たちの間でカリスマ的人気があるようで、また、翻訳者の金原氏が「ポップでクール」と評しているから、これがかの地で流行の文体であるらしい。
また、物語の舞台となるロサンゼルスの街並み、女の子たちが好きこのんで身につける服、香り、音楽、「クール」なものとそうでないもの、いろんなものが混ざり合った独特の雰囲気がこれでもかと伝わってくる。
文学青年で、みんなの憧れの的で、でも愛してはいけない女の子を愛した苦悩ゆえに、ピストルで死んでしまったレックス。
ほんの少し、シーモアを思い出す。「バナナフィッシュにうってつけの日」の主人公で新婚旅行の最中にピストル自殺してしまう彼。彼の苦悩の本当のありかは、決して誰にもわからないままだけど。サリンジャーがアメリカの若者をとりこにした時代もあったんだよな。そして若者たちの心の底を流れる苦しさは今も昔も変わらないのだろう。
それにしても、どうして日本語のタイトルが「ひかりのあめ」なんだろう。いったい、どこからこの言葉を引っ張ってきたのだろう。本文中にはなかったはずなのに。
(2005.7.14)

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