金原ひとみ(文藝春秋2004年3月号)
第130回芥川賞受賞作
いきなりすなわちスプリット・タンの話が出てきたかと思ったら次は刺青。身体改造というよりは身体毀損を喜んでいるような雰囲気がある。しかもこの話に出てくる登場人物は3人。3人だけの閉塞された世界でこの話は進行する。そこから立ち上ってくるのは死と虚無のにおい。あくまでもにおわせているだけなのでかえって気をひく。


登場人物は一見ピュアに映るけど、ちょっと違う気がした。彼らは、その日そこに存在するだけで精一杯で、他のことにまで頭が回らないように見える。特に主人公の子は誰かを好きになってもその感情に名前を与えられないほど、自分のことで精一杯。
理由はともかく、そのくらい生きるのがしんどい時は確かにある。痛みを感じてようやく生の実感が持てるほどに。だから彼らはファッションという名のもとに、舌を割いたりピアスの穴を拡張したりして痛みを求めるのだろう。
この話に登場する3人の中で一番まともそうなのがシバだけど、彼が一番死に近い人間かもしれない。何より名前があやしい。シバは愛称ではあるが、破壊を司るインドのシヴァ神を連想させるし、本名は柴田キヅキである。「キヅキ」という名前は春樹ファンならピンと来るが、「ノルウェイの森」で登場する少年の名だ。
「ノルウェイの森」において、主人公とキヅキ少年とその恋人の直子は奇妙といってもいい友情で結ばれていた。その微妙なバランスを崩したのはキヅキの自殺だ。恋人を失った直子の狂気が発動して、彼女自身、数年後に自殺するることになった。そういういわくつきの名前だ。
作者が「ノルウェイの森」を意識していたかどうかは知らないけれど、珍しいひびきの名前だし、この名前を目にしたとたんに、一段と死のにおいが濃くなった気がした。
そして、アマを殺したのは絶対シバだよな、と思わせる描写が(恐らくわざと)所々においてある。なのに、主人公は祈るような気持ちでシバは無実だと信じる。そのギャップが切ない。
このラストから数週間後、港で女性の変死体が見つかったとしても驚かないけどね。
なお、文藝春秋にはこの作品とともに作者へのインタビューが掲載されている。それを読む限り、受賞作よりも作者本人の経歴の方が興味深い。小学校4年から登校拒否が始まったとか、親元を飛び出して彼氏の部屋に居候する生活をしていたとか、生活費をパチスロで稼いだ日々とか。この作品が全くの架空でないことが分かっただけでも面白い。ちなみに彼女はまだ未成年だったりする。(2004.5.26)

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