アーシュラ・K・ル・グィン(清水真砂子 訳)
正真正銘、これがゲド戦記の最終巻。アースシーの力(魔法の力も、竜の力も、大地の力も含めてすべて)の秘密が解き明かされている。
主人公はもはやゲドではなく、その連れ合いのテナーと養女のテハヌー、そしてかつてゲドが見出した若き王である。彼らがアースシーの異変について、魔法使いを交えつつああでもないこうでもないと論議を重ねながら、新しい秩序を見出す。


「最後の書」と銘打たれた4巻では、魔法の力を失ったゲドがテナーのもとに帰るまでがかかれていて、竜の秘密についてはほのめかされているだけだった。その後、外伝が出て、少しは謎を解く手がかりがうかがえるけれども、やはり5巻を読まなくては一番根本の謎はとけない。
5巻には、もう一人、影の主人公とでも言うべきキャラクターが登場する。ハンノキという修理の技にすぐれたまじない師(モノ探しや壊れ物修理などで生計を立てていて、魔法使いには至らない魔力の持ち主)だ。彼は、亡くした妻を愛しく思う余り、自分でも気づかないうちに死者の国の境目まで赴き、亡者の群れの中に妻を見つけて抱擁する。本来なら生きているものが死者に手を触れることすらできないはずなのに、である。それ以来ハンノキは眠るたびに死者の国に引き寄せられて亡者に助けを求められるようになり、それは彼個人の体験にとどまらず、アースシー全体に影響を及ぼすようになる。
困ったハンノキは魔法学院を訪ね、ゲドのもとを訪れ、最後には王のもとへ行く事になるのだが、自分は取るに足らぬ者と自覚している彼にとって、賢者や王のもとへ赴くのは心苦しい旅にほかならなかった。だが、夢の恐ろしさ、重大さを肌身で感じているのでそうするしかないと動いているわけだ。
風にもてあそばれる木の葉、それでなければ川に落ちて水にもまれながらどことも知れない場所へ運ばれてゆく木の葉みたいな彼の心境は痛いほどこちらに伝わってくる。
もちろん、真相は彼には特殊で重要な力が備わっている。夢の水先案内人かつ、世界の修復者だ。
もう一つ、興味深かったのは、全然性格の違う3組のカップルが登場すること。
一つはハンノキとその妻。この二人は生死を越えるほどの愛情を互いに抱いていた。世の中には、そういう何者も分かちがたい結びつきがあるのだと、テナー(恐らくは作者の分身)が語っている。
もう一つは王と、王妃候補として連れてこられた王女。もともと王は女性に対してはたいそう臆病で、世継を求められながらもなかなか結婚に踏み切れない。そこへ、某国から和平交渉の条件として送られてきた王女。彼は王女をどう扱っていいものか困り果て、怒りさえ覚えている。テナーがそこをうまく行くように立ち回るのだが、王と王女は人種も文化も違えば、言葉も通じないし、若くてとんがっている。果たしてうまく通じ合えるのか最後までハラハラさせられた。
最後は言うまでもなくテナーとゲド。二人とも老境に差し掛かろうかという年齢で、互いの絆はとても安定していて深い。この二人がどんな波乱の人生を送ってきたかは言わずもがな。人生の最後にこんなパートナーに恵まれたらもうそれ以上望むものはいらないでしょう、と言いたくなるほど。
最後に「アースシーの風」というタイトルについて。
これはもう、最後まで読みきってなるほど、とうなずくほかはなくかった。アースシーに吹く風は、単なる空気の移動ではないのだ。
(2006.1.4)

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