大平健(岩波新書 赤版)
精神科医である著者が、彼のもとを訪れる患者たちを例にとりつつ、日本古来のやさしさと今の若者が使っている「やさしさ」の相違について解き明かしてゆく。


ほとんど推理小説のノリで、とても面白かった。本文の8割が患者との面接の様子に割かれており、面接の合間に著者の見解が入り混じる。それもきちんと論旨が通る順番で患者のケースを取り上げているので、話の筋道が見えやすい。
古来の「やさしさ」と今の若者が言う所の「やさしさ」が違うという気づきから出発し、さらにどこがどんな風に違うのか、具体的な例をあげながら話がすすんでゆく。
話がわかりやすいだけでなく、個々の患者が抱える悩みが非常に日常的なのにドラマチックで、アメリカの短編小説を読んでいるような錯覚を持つことさえあった。
現代の「やさしさ」について特に興味をひかれたポイントをあげてみると
・相手の心に立ち入らないのが思いやり。相手の内面に口を突っ込むのは失礼で、沈黙は思いやりのしるし。
・対人関係を円滑にするために使われるのが「やさしさ」である。(このへんは意味的に「マナー」とかぶっているかもしれない)
・本質的には、自分を傷つけないための手段。(なぜなら相手を傷つけたという自覚によって本人の心も傷つくから)
そして、次が一番目からウロコな発見だった。
縫いぐるみは究極的に「やさしい」存在である。なぜなら心をもたないので、余計な気づかいをする必要もないし、生物ではないからペットみたいに世話をする必要もなく、持ち主が慰めて欲しいと思ったときには必ずやわらかな手触りで応えてくれるから。
そして縫いぐるみの次にやさしいのがペットなのだ。
そうか、だから人形(と動物)は神にも等しい究極の存在なんだ、と「イノセンス」の謎がとけたのだった。

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