フランチェスカ・リア・ブロック(訳/金原瑞人)
アメリカの若者からカルト的人気を得ているブロックの作品を読むのは2作目。
これは正直、タイトルにひかれた。ちなみに原題は「Echo」(エコー)。こだま、つまりエコーはギリシャ神話に登場するニンフのひとり。ナルキッソスに恋焦がれてついには声だけの存在になってしまったという。主人公の少女の名がEcho。
もちろん、作中において人魚の涙も天使の翼も大切な意味を持つから、これは訳者のセンスが見事というしかない。


舞台はロサンゼルス、エコーという少女と彼女をとりまく人々をあつかった短編連作。と言えると思う。短編が集まって、全体として大きなストーリー、つまりはエコーの成長物語を作っている。
漠然としているようで、細かいところは妙にリアルな不思議な文体。
例えば、部屋にはどんな調度品があって、どんな香りがただよっていて、どんな音楽が流れていて、誰とどこで何を食べたか、あるいは食べなかったか。そんな細部が力を持ってロスという街の悪魔的な魅力を語りかけてくる。
その一方で、事件の時系列とか、人間関係は推測で理解するようになっているので、そのへんが漠然とした雰囲気を感じる原因なんだろう。
また、アメリカというか、ロスで流行っている生活スタイルに少々驚いた。かの地では、多少なりとも階級が上の人たちは、すごい健康志向を持っているのだ。
例えば食事は、和風や中華が流行。野菜スープやスシは序の口で、トウフもかなり一般的になっているらしい。ミソスープやらレンコンやらゴボウが登場した時には驚いた。もっとも、ゴボウはほとんど漢方薬扱いだったけど。
また、手術を受けた娘の命が危ないとき、母は看病のかたわら霊媒師に相談する。しかもごくナチュラルに。それで「娘の前世は…」とか言われると、素直に聞き入れる。
マリファナとかコカインとかLSDといった麻薬も煙草感覚で登場する。
何もかもが自分の生活や常識と違いすぎて、その軌道修正をするのにちょっと時間がかかったが、とても新鮮。
登場人物はたいてい心に満たされないものを抱えて生きている。彼らはその穴を埋めるために、パートナーを探しつづけ、運良く見つけたあとは彼あるいは彼女への愛を失わないようにすることで必死。
エコーも、何度も出合いと別れを繰り返しつつ、時には拒食症に陥ったりしながら、自分の生き方を考え、自分に注がれてきた愛情に気づき、最後にとうとう意中の人にめぐり会うのだ。
生きることの生々しさとロマンチックさが微妙に入り混じっている、そこがたぶん、この作者独特の魅力なんだろう。

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