たつみや章
和製ファンタジーに挑戦・第2弾。
たつみや章といえば、「月神の統べる森で」など、縄文時代のファンタジーが有名だけど、あえて現代ファンタジーで、しかも初期の作品を選んだ。というのも、この作品が第32回講談社児童文学新人賞受賞作であるだけでなくて、この話では「お稲荷さんの使い」こと白い大ギツネが登場して大活躍することに興味を覚えたからだ。正直なところ、このお使いキツネは超美形という設定が気に入ってたりして。


いやもう、色んな意味でびっくり。それもすべてが良い意味での驚きだった。
とにかく、ストーリーが渋いほうへ転がってゆく。
例えば、主人公のマモル少年の家に突然やってきた「守山さん」の正体が最初がバレバレなこと。帯の紹介文ではあえて伏せてあるが、物語の最初の数ページで、守山さんが実はお使いキツネだとわかってしまう。
また、いくらマモルが巫女の家計だからといっても、話が始まって早々に神社のご神体に対面してしまうところにもびっくりした。それがもう、かなりテンション高くて感動的に描かれている。
こういうのは普通、最後のためにとっておくのでは…と思っていたら、それは甘かった。彼らの出会い、そして正体を知らしめておくことは、今後の布石にすぎなかった。
どうしてわざわざキツネが人に化けて出てきたかというと、それはひとえにお稲荷さんのご神体である「お主さま」の住処、稲荷山の開発を食い止めるため。
マモル少年と守山さんこと、お使いキツネは開発企業に乗り込んだ折、非常に頼りになる協力者(なんとそれが開発企業の社長の次男坊)を得て開発阻止に挑む。
しかし。死闘の末に、マモルたちは敗れ、守山さんは命を失い、山は削られ、「お主さま」は居所を変える。これが物語が約3/4まで進んだところで起きる。そう、「奇跡が起きて稲荷山は守られました、めでたしめでたし」ではないのだ。
本当のラストは、破壊の後に来る再生を見届けて、それで終わる。物語の面白さを充分堪能できた。
キャラの設定もすごく細かくて、きっと、語られないストーリーがそれぞれにあるんだろうなと余計な妄想が走るほど。
マモルやお使いキツネの守山さんのことは、詳しく語られているけど、例えば、社長の次男坊なんかは、会話の中で「開発に反対したので会社をクビになり、勘当もされた」とさらりと書かれているだけで、でも、たぶんに壮絶な親子喧嘩があったものと思われる。また、いつの間にか秘書だった女性と結婚して、話の終わりの方では赤ちゃんが生まれることになっていたりして、そのへんのロマンスもあったけど本文には出てこなかったんだろうな、とか、あとは稲荷山古墳を発掘して感動にふるえた考古学の博士のこととか、また、守山さんの部下とも言える若いお使いキツネたちの話とか、想像し始めたらキリがない。
なにより、「お主さま」の設定が、もう! 限りなくやさしくて悲しくて、自然の生き物も人の子も同じように愛するという、いわば母性の神。守山キツネが命を捧げたくなるのも無理はない。
あとは、環境問題に対する深い考察にはただひたすら恐れ入りました言うしかない。
社長の次男坊が、環境問題に目覚めて、自分の会社のやっていることを阻止しようと頑張るのだが、それも99%の確率で負けると分かっていて勝負する。彼にはわかっていたのだ。まだ時期が来ていないだけで、やがて誰もが本気で環境のことを考えなくてはいけない時代が来ること、また、そのために先鞭をつける誰かが必要だということ。
また、彼は最後に気がつく。人間が自然を守るなんて考え方は驕りであること。例えば、いったん切り開かれた森は、100年経たないと戻らないというが、100年たてば戻るということでもあって、人間が自然を壊さないようにするのは、自分たちが生きるためなのだということ。
いやーすごいな。こういう考え方があってこそ、後の縄文時代を舞台としたファンタジー作品が生まれるんだな。
あ、最後にもう一つ驚いたことを。
えーと、私、作者紹介を読むまで、この方を男性と思っていた。
「4児の母」ですって? 
ますます素晴らしい。

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