梨木香歩
この作者は「裏庭」で第一回児童文学ファンタジー大賞を取っています。また、この作品自体もいくつかの文学賞をとっています。まわりの声を聞くと、こちらの作品を好む人が多いようで。
内容的には、おばあちゃんと孫の心温まる交流物語です。イギリスからお嫁に来たというおばあちゃんのライフスタイルが素敵なのですよ。


主人公は、中学3年生の少女・まい。1年生の時に不登校になって、1ヶ月ほどおばあちゃんと2人で暮らした。そのときの思い出が物語の中心になっている。
おばあちゃんはもともと日本という国に憧れを持っていて、英語教師として日本にやってきて、当時理科教師だったおじいちゃんと出会い、結婚した。おじいちゃんは新居用に、山の中に土地を買った。おばあちゃんは、そこで家族や自然とともに楽しくどっしりと生きてきた。「魔女の心得」を守りながら。
そこへ孫娘のまいが、それこそ舞い込む。まいは、もともと感受性が強くて神経質なところがあったまいは、カントリーライフを楽しむおばあちゃんに憧れ、さらには「魔女の心得」を教えてもらいながら、うまいこと成長させられてしまう。でも、まいはおばあちゃんの手のひらにすっかり乗せられていることに気づいていて、たまにカウンターパンチを返すところが楽しい。
一面の野イチゴをバケツに何杯も摘んできて、大鍋で煮てジャムにするとか、昔ながらにたらいで足踏みでシーツを洗うとか、ハーブを煮出した液で虫よけをするとか、毎朝ニワトリの卵を取りに行くとか、そういう描写がとても気に入った。途中で何度も「大きな森の小さな家」を思い出した。
ただ、これは昔の田舎暮らしを書いた物語ではない。この現代に奇跡的に残っている桃源郷を描いているのだ。だから、一見楽園みたいなおばあちゃんちの暮らしにも、無粋な現代生活のくさびが打ち込まれることがある。その代表が怪しい隣人の「ゲンジさん」だったり、おばあちゃんと母さんの隠された確執だったり。
おばあちゃんにとっては特に気にかけるほどのことでなくても、思春期真っ只中のまいには耐えられないほど嫌なこともあって、あるとき、2人の間に深い溝ができてしまう。その溝が埋まる前に、まいは父母のところへ戻らなくてはいけなくなった。
まいは、おばあちゃんに対してずっとしこりを抱えたまま、でも不登校からは立ち直って2年の歳月をすごす。そして不意に訪れたおばあちゃんの訃報。まいの心は後悔でいたたまれなくなった。それはたぶん、母も同じこと。
でも、死んでしまったら何かもお終い、ではない。おばあちゃんは死を迎えることで、まいにかけがえのない贈り物を残していったのだった。
これだけ見事な癒しと成長の物語が、あの分厚い「裏庭」の1/4の分量でかかれている。ストーリーはシンプルだし、描写はリアルで意味深だし。
物語の性格にもよるけど、下手に書き込まないほうがいいタイプの話もあるんだということで。

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