今年の四月に話題になった「ユダの福音書」と、福音書の解説がセットになった本。ナショナルジオグラフィック社による出版。
いわゆる正典とされる、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの四福音書では裏切り者とされているイスカリオテのユダが主人公になっていて、ユダのみがイエスの真の理解者だったという解釈で書かれている。


エジプトで発見されたとされるこの文書は、「チャコス写本」と呼ばれ、ユダの福音書のほかに3つの文書が含まれていたという。成立は期限2世紀ぐらい。骨董美術商の間を転々としたこの文書は、不幸にも保存状態が悪く、文字が書かれているパピルスは黒ずみ、触れれば崩れてしまう状態で、解読作業に恐ろしく手間隙がかかった。そのため欠損部分や解読不可能な箇所が少なからずある。
しかし、この福音書ではユダがイエスの親友、真の理解者として描かれていること、それゆえ、イエスの魂を肉体から開放するため、イエス自らの依頼によって裏切り行為を成したことがはっきり読み取れる。同時に、この福音書がグノーシス派の思想をキリスト教風に解説したものであることも読み取れるという。
グノーシス派というのは、ごく簡単に言うと、紀元2~3世紀ごろに流行した神秘主義の一つで、キリスト教やユダヤ教で言う所の「創世神」を下等な神と見なし、それとは別に至高の存在というのがあって、魂はそこから来るのだという思想。プラトンのイデア思想にも通じるところがある。
とりあえずはこんな感じ→
ユダの福音書によると、イエスは創世神の子ではなく、至高の存在から使わされた導師として描かれている。そこでは、ユダ以外の12使徒は真実を知らない(つまり至高の存在を知らない)無知な人間として描かれ、ひとりユダだけが真実を知っていて、だからこそイエスはユダに裏切り行為を依頼し、また、そのことによってユダは至高の存在の仲間に入ることが出来るだろうと預言している。
何が真実かはさておき、この写本が作られた時期というのは、成立したばかりのキリスト教がいくつかの宗派に分かれ、どこが「正統派」になるかまだはっきりしていなかった。その頃には、現在正典とされる四福音書のほかに、このユダの福音書、トマスの福音書、マグダラのマリアの福音書など、数多くの福音書が出回っていたようだ。
たぶん宗派ごとにさまざまな対立や組織拡大の動きがあったのだろう。一番大きな力を持った宗派が「正典」を制定し、それ以外を「異端」として弾圧するようになった。そして何種類もの福音書が闇に葬られた。
つまり、これまでキリスト教を信じてきた人たちが聖なる書物に書かれている教えとして信じてきたことがらは、人為的に選択されて生き残った神話だとも言える。
今さらながら神とは何だろうかと考えざるを得なかった。結局、倫理を発動させるために人間が考え出した装置なんだろうか。

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