音楽の謀略―音楽行動学入門 音楽の謀略―音楽行動学入門
福井 一

悠飛社 1999-11
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立ち読みで前書きを読んだら面白そうだったので、買ってみた。
「音楽行動学」とタイトルにあるように、内容は、音楽と人間の関係を科学的に探っていこうとする試み。だから、一般的にイメージされる「音楽について語る本」とはまったく違うアプローチで音楽の本質に迫ろうとしている。


科学的なアプローチだから、まず「音楽は人間の生存にとって必要不可欠なものか」という問いに始まり、また、「必要不可欠ならば、なぜそうなのか」と理由をもとめてゆく。
著者はダーウィンの進化論を引っ張ってきて、音楽(芸術一般も同じこと)は人間の歴史の中で自然淘汰されて生き残ったものだから、理由はどうあれ、人間に必要なものに違いないという仮定をたてた。
次に証明すべきは、「なぜ人間にとって必要なのか」だ。漠然と「音楽がないとストレスがたまるから」ではなく、音楽が人間にとっていかに有益に働くかを科学的な(言い換えれば実験結果という目に見える形で)証明しなくてはいけない。
その答えがどうなったか、ものすごく乱暴に端的にまとめると、音楽にはテストテロンというホルモンを最適な量に調整する働きがあるらしい。テストテロンというのは、男性ホルモンの一つで、これが多いと身体的にも心理的にも男性的になる。また、このホルモンは分泌量の男女差がものすごく大いので、男性の場合は分泌量をおさえた方が、逆に女性の場合は増えた方が、脳としてはバランスのよい働きができる。具体的には、空間把握・認知の能力が高くなる。このバランスをとるときに、音楽が役に立つという。聞き手の文化や好みに合ったものなら、種類はどれでもいい。脳の働きがよくなるということは、生存競争で有利に働くから、結果として人間は音楽を必要なものだと判断して残してきたわけだ。
今までこういう観点で音楽を捕らえたことがなかったので、非常に新鮮な見解だった。
そのほか、興味深い記述としては、音楽は脳に快感を与えることで一時的に思考停止に陥らせることができ、洗脳やプロパガンダの道具として非常に有用だという。そのため、大昔から宗教的な儀式に音楽は欠かせなかったし、近いところではナチスがワーグナーの音楽を巧みに使って国民を扇動したことが挙げられるし、テレビCMで音楽が重要な役割を果たしているのもよくわかる。
政治と音楽が連動しうる――これはなかなか良いネタになりそうじゃありませんか。

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