4652077998 ベルリン1945
クラウス・コルドン 酒寄 進一
理論社 2007-02

by G-Tools

少々分厚かったですけど、ついに読みきりました!
これでベルリン3部作読了です。1919、1933、1945。国の内外で恐ろしいことがおきていたのは、日本もドイツも同じ。
1933で気になっていたハンスとミーツェのその後も出てきます。ミーツェはユダヤ人といってもハーフですから、収容所送りの対象にはなっていなかったんです。二人は地下活動に身を投じますが……ネタばれは避けたいので、詳しくは本書をどうぞ。(^.^)


今回の主人公は、エンネ・ゲープハルトという12歳の女の子。「1919」で主人公だったヘレの娘。彼女の目を通して、1945年の2月から初夏、つまり戦争末期の空爆~ソ連との銃撃戦~ソ連による占領までを描いている。
1945では女の子が主人公だったせいか、それとも戦争という強烈な背景を書き込まなくてはいけなかったせいか、前の作品に比べて人物描写がちょっと物足りない気がする。政治の話が出てこないのは、ナチ一辺倒の時代だからどうにも書きようがなかったのだろう。
3巻を通じて中心的な存在となるゲープハルト夫妻、つまりヘレの両親であり、エンネの祖父母であるルディとマリーは最後まで健在だけど、1945になるとさすがに年を取ったなと思う。マリーは心配性が先に立ち、ルディはすっかり性格が丸くなる。ヘレが帰ってきてやっと以前のような気概を取り戻したかなという感じ。そのかわり、ヘレがこれから新しい家族とともに頑張ってくれるだろうというところで話は終わっている。
エンネの両親(つまりヘレとユッタ)は、ナチズムに反対したかどで強制収容所行きになったので、今ではマリーとルディが彼女を育てている。家はもちろんアッカー通り37番地の4号棟。ただし、二人は祖父母ではなく両親のふりをしなくてはいけなかった。親が強制収容所にいることがわかったら、学校でどんな扱いを受けるかよくわかっていたから。
それが、あるきっかけでエンネは本当の両親について知ることになる。ほかにも、ナチ党員と結婚したマルタ叔母のこと、ヒトラー・ユーゲントに入れないようにするため祖父母たちが仕組んだ偽の病気診断書、母の死の真相など、エンネにとっては家族の秘密がたくさんありすぎて、それが明かされるたびにどうやって受け止めたらいいのか心が揺れ動く。
戦争の中で、しかもナチズムに反対する家族に囲まれて育ったエンネには、何が正しくて何が不正なのかよくわからない。学校や友だちはナチズムが正しいといい、祖父母をはじめ同じアパートの人々は、ナチズムの欺瞞をよくわかっていて防空壕の中で冗談のネタにする。そしてエンネの周りには保身のために主義主張をコロコロ変え、隣人を敵に売る大人がうようよしている。
一番の葛藤は、生まれて初めて出あうに等しい父との関係だろう。エンネは父の顔を写真でしか知らない。その父は若々しくて素敵に見えたはずだ。しかし、12年間の収容所暮らしから戻ってきた父は、歯を失い、疲れ果てて骸骨のように痩せきっていた。帰ってきたとたん、抱きついて涙を流すなんてできるはずがない。彼女にとっては「知らないおじさん」なのだから。(実の母は収容所で亡くなっている)
その一方で、父を素直に受け入れられないことをエンネは恥じるし、父も悲しがる。結局彼らは少しずつ歩み寄る努力をして、希望は見えてくるのだけど。
それはまるで、すべてを失ったドイツが再生を始めようとするのと重なって見える。
空爆の描写は、それはそれは凄まじかった。防空壕で恐怖にさいなまれる人々、破壊し尽くされたベルリンの街、道端に転がる焼死体、焼け出された人々。
空爆が終わったら、今度はソ連軍との市街戦。この間ゲープハルト一家をはじめ、アパートの人々は防空壕にこもらされるが、時おり負傷兵が運ばれてきたり、逃亡兵が潜伏にくる。その逃亡兵というのが10代前半のユーゲントというあたりが、かなり痛い。
続いてソ連軍の進駐により、やっと街は静けさを取り戻すが、今度はソ連軍による略奪に暴行、元ナチの党員狩り。
それだけではなく、ドイツが戦争中に国の内外で何をしたのかも、ヘレや逃亡兵の口から語られる。
こうやって書くと、救いがない話のように思えるかもしれないが、そこに救いを与えているのがルディやヘレの確固とした信念だろう。
二人とも、この悲惨な戦争を招いたのはドイツ人自身だと言い切っている。それが可能だったかどうかは関係なく、ナチを止められなかった自分たちに責任があると。特に、保身のために自分をナチに売った人々、「あれは仕方なかったんだ」と弁解する人々を激しく非難している。そして少しでも良い未来を手に入れるために、再び行動を起こそうとする。
これらがみな、12歳の少女の目を通して描かれている。というのも、若者に真実を見つめてほしいという作者の強烈なメッセージがあるからで、日本にはこれに匹敵する児童書があっただろうかと、首をかしげる。原爆や空爆の恐ろしさを書くだけでなく、なぜ戦争が起き、日本軍はどこで何をしたのかをできるだけ真実に近い形で書ききった本のことだ。

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