4035402303 夢の守り人 (偕成社ワンダーランド)
上橋 菜穂子
偕成社 2000-05

by G-Tools

図書館で予約して、やっと順番が回ってきて、さらに時間ができるのを待って読みました。今回は呪術師が主役。


一番の感想は、ちょーっとばかし小難しいテーマだったかな、という感じ。
テーマはタイトル通り「夢」。夢を見るのは魂の働きだという設定があって、すると魂を扱う仕事をするのは、呪術師だからということで、トロガイとタンダが中心の物語になっている。
作者はもともと民俗学の研究をしていて、専門はオーストラリアの先住民であるアボリジニだとか。夢を魂にとって重要なものとみなし、もう一つの現実として捕らえているところは、やはりアボリジニ文化の影響なんだろうな。
本来、人が見る「夢」は捉えどころがなく、見た本人でさえうまく説明がつかないもの。それに対して「夢を糧として咲く花」とか「花が生み出す特別な異世界」という形を与え、具体的な質感を与えたところは凄いなぁと思う。それでもなお観念的というか、抽象的すぎて花の存在を頭に描きにくい点は否めない。それだけこのテーマは難しいということなんだろう。
でも、魂と生命の関係がきっちりわかりやすく描かれていて、夢の危険な面がうまく強調されていた。二度と手に入らない大切なものや思い出を抱えている人たちが夢に引きずられる恐さ。それは誰もが持っている人としての弱さだし、また、夢から覚める力は生命そのものが持っている強さ。
「夢」にとらわれた人々が登場するくだりで、現代の「ひきこもり」のことを思った。夢の世界に浸ってそこから出られなくなっている状態なのかもしれない。入るのは簡単だけど、出るのは難しいそうだから。
興味深いのが呪術師の社会的立場について明言してあること。前の2作では何となくしか触れられていなかったけれど、この作品では呪術師がマージナルな存在としてはっきり、何度も繰り返し語られている。マージナルというのはつまり、社会的集団に属さないので、集団の掟にしばられる必要もないが、庇護も受けないというやつだ。シャーマンのほかに、旅芸人などもこれに入る。バルサみたいな用心棒もたぶんそうだ。
また、タンダやトロガイの過去が登場する。特に見ものはトロガイ(いや、決して見世物じゃないんですけどね/汗)。彼女は貧しいヤクーの村の子として生まれ、時おり農民以外の人生を夢に見ながら、ごく当たり前に近くの村へ嫁ぎ、子どもを産んだ。でも、厳しい暮らしの中で子どもを次々を失い、ついに心神喪失の状態になってしまう。そして不思議な夢(激しいネタばれになるので割愛)を見て第2の人生が始まる……という具合だ。
タンダもまた、農民の子として生まれながら、霊感らしきものを持っていたがために、農民の暮らしになじめず呪術師の道に入ったという過去がある。
どちらも魂の世界を近くに感じすぎて、呪術師としてしかまともに生きていけなかったんだな。
そうそう、バルサとタンダの仲はどうなったかというと……。
魂を抜かれて人鬼と化したタンダと戦ったあとで、バルサはこう言い切った。「あいつ(タンダ)を殺すくらいなら、あいつに、この首くれてやるよ」と。
気持ち的には、そういう関係だということで。

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