4037500507 虚空の旅人 (偕成社ポッシュ 軽装版)
上橋 菜穂子 佐竹 美保
偕成社 2007-09

by G-Tools

チ、チャグムが……!
なんてハンサムな若者に成長したんでしょう。
これは、バルサと別れ皇太子として着々と成長しつつあるチャグムの、その後の物語で、「精霊の守り人」シリーズの外伝。でも、それだけでは終わっていない。物語の世界がひと回りもふた回りも大きくなってしまった。


あらすじとしては、南のサンガル王国の王位継承の儀式に招かれたチャグムが、王国のお家騒動に巻き込まれてしまう話。そこに、ナユグ世界に魂を持って行かれた少女の話がからんでくる。
これまで物語の主な舞台だった、新ヨゴ王国とカンバルを飛び出し、話は南の島々へ飛ぶ。さらには海の向こうにある強大なタルシュ帝国の影もちらつく。
舞台が海になったためだろうか、途中で何度もゲド戦記、とくに3作目を読んでいるような錯覚に陥った。海の民の描写を読んでいると、アースーシーと良く似た空気を感じた。
確かに似ている要素はいくつも挙げられる。物語が、海に生きる人々を中心にかかれていること、魔法(=呪術)が通用する世界であること、主人公が王子と魔法使い(=皇太子と呪術の心得を持った星読博士)であること、女たちに実質的な権力を与えていること。
そして何より、どちらの作者も文化人類学を学んでいる。これは物語世界の土台を作るときにとても重要な要素になってくる。
逆に相違点といえば、異世界の内容がほぼ正反対であること。ゲドたちが向かった先は死者の国だったが、精霊~では、ナユグという生命あふれる世界。でも、一番違うのは、キャラクターの性格。描かれている人間の質は両者で全然違う。これは作者の性格というよりは、民族性の違いが現れてるかな、という気がしないでもない。
さて、魅力的・あるいは印象的ななキャラクターが数多く登場するこの話の中で、やはりチャグムが一番心惹かれる。皇太子として、社交上の立場を守りつつ、それでも訪れた国の人々の命を案じ、どうにかして助けようと奮闘する姿は、頼もしかったり、時に痛々しかったり。
そして、時に無鉄砲な行動に走りがちな皇太子の手綱を引き締めつつ、結局は皇太子に押し切られてしまうお守り役のシュガが何とも良い感じ。
さらにチャグムとシュガの、主従関係を超えた心のつながりがまぶしい。ラストシーンでの二人のやり取りは、本当に素敵。

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