412501003X クレィドゥ・ザ・スカイ (C・Novels BIBLIOTHEQUE 84-5)
森 博嗣
中央公論新社 2007-10

by G-Tools

とりあえずスカイクロラシリーズ最終巻
病院に軟禁されていたクリタが脱走してキルドレの秘密を握る科学者に匿われ、さらには軍(戦争請負企業として登場するけど)と一戦交えて……そして話は振り出しに戻るという流れ。
実際はストーリーはどうでもよくて(汗)、大切なのは何が人間を規定しているのかという問い。「僕」が「僕」であるためには何があればいいのか、という話。


物語を書くとき、1人称で書くと主人公の感情に寄り添いやすいぶん、視野が限定されるので客観的状況が描きにくいと言われる。
このシリーズはそれを逆手にとって、とことん「僕」視点の世界を繰り広げる。読み手は主人公の心理はいやと言うほどわかるが、主人公をとりまく状況がさっぱり飲み込めない。というか、主人公が理解してないものは読者も理解できない。
特に、この巻の途中からは「僕」の名前さえ消えてしまう。もうほとんど「我思う、ゆえに我あり」の世界で、考える主体のみが存在する。もっとも、この物語の脈絡でいったら「我飛翔する、ゆえに我あり」だね。
我=僕とは、クサナギであり、カンナミであり、クリタだ。
永遠に年をとらないというキルドレの特性について、サガラという研究者の説明が興味深い。
キルドレの場合、肉体は年をとらないが脳内には情報が積もりつづける。するとどうなるか。何か動作をするときに、思考を必要とせず、反射的に体が動き、その動作は記憶に残らないという。だから老人と同じで昔のことはよく覚えているのに、最近の出来事はよく覚えていない。人の名前も地名もどんどん消えてゆく。結果、人格崩壊を起こすキルドレもいるのだと。
サガラはさらに付け加える。「死んで生まれ変わらないと生物は進化できない」「死ぬ機能を持っていたものだけが地球上に生き残った」
だとすれば、キルドレは進化の袋小路に追い込まれた種族だ。彼らは最終的には絶滅するしかない。自分の過去も名前も何もかも忘れ去り、ついには身体も失って、最後に残るのは空への憧れだけなんだろうな。
そういう存在って、とてつもなく素敵だ。

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