伝記 世界の作曲家(7)チャイコフスキー (伝記 世界の作曲家) 伝記 世界の作曲家(7)チャイコフスキー (伝記 世界の作曲家)
マイケル ポラード

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チャイコフスキー―クリンへ帰る旅びと (作曲家の物語シリーズ (1)) チャイコフスキー―クリンへ帰る旅びと (作曲家の物語シリーズ (1))
ひの まどか

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次の定期演奏会のパンフレットで幻想序曲「ロミオとジュリエット」の解説を書くことになったので、その下調べとして作曲者チャイコフスキーの伝記を2冊読んでみた。
彼が貴族の出身であり、家庭教師をつけてもらえるほどのお坊ちゃん(音楽を聞くと興奮しすぎて眠れなくなり、幼い頃のあだ名は「ガラスの坊や」)だったとは! だから、彼の音楽は郷愁あふれるロシアの旋律を取り入れながらも、土の匂いがあまりしないんだ。
そして、ある程度予想はしていたが、読む伝記によって、同一人物に対するイメージが180度変わる。一方では神経質で憂鬱症で自分の作品に自信が持てない孤独な天才。違う伝記を読めば、繊細で友人や兄弟に愛され、静けさと創作活動を何よりも大切にする努力家の姿が浮かぶ。


一般的な知識を得るなら「伝記 世界の作曲家」で充分だが、作曲家の心のひだや、なぜあのような音楽が生まれたのかなど、一歩踏み込んだところまで知りたいなら「作曲家の物語シリーズ」がおすすめ。
それで基本的には後者のシリーズを信頼しているのだけど、チャイコフスキーに関しては、「おや?」と思う点があった。
1つ目:
小学生向けを意識したのかもしれないが、同性愛の傾向についてほとんど触れておらず、彼が生涯独身を通したのは母親の死から来る女性恐怖症のため、という立場をとっている。
2つ目:
3ヶ月で失敗した結婚については後始末の詳細が省かれ(神経衰弱に陥った彼のため、弟や姉が奔走し、また正式な離婚手続きを経るまでにはいろいろあったようだ)、まるで問題が妻となった女性の性格にあるような書き方がなされている。確かに、彼女に問題がなかったわけではなかろうが、気の毒な扱いではないかと感じた。
その一方で、チャイコフスキーが人間関係に恵まれていたことはしっかり書き込まれている。彼の音楽のよき理解者であり師でもあったニコライ・ルビンシュタイン、音楽院時代からの親友たち、いつも彼を優しく支えてくれる姉や弟。彼はひどく神経質で音楽に関しては一徹な反面、人前では物静かで優しい性格だったようで、それが人をひきつけたようだ。もしかると母性本能をくすぐるタイプだったのかもしれない。
もともと、チャイコフスキーの生涯に関しては大きな謎がいくつかある。死亡の原因は病死か自殺か。彼は本当に同性愛者だったのか、それとも極端な女性恐怖症だったのか。14年にわたり金銭面と精神面で彼を支えつづけたフォン・メック夫人が、突然援助を打ち切った本当の理由などなど。
伝記作者がどんな視点でどんな資料を採用するかで、人物像がすっかり変わってしまうし、過去の出来事で資料が限られている以上、史実についてはどうしても推測の域を出ないこともある。ただ、幸いなことにチャイコフスキーは作曲家だ。彼の生み出した音楽に耳を傾ければ、彼の心情が嘘偽りなく伝わってくる。

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