※管理人、現在言葉の海で遭難中につき、またまた少し前の読書記録を引っ張り出してきました。公募の締め切りが近いんです~(>_<)

4652086105 月蝕島の魔物 (ミステリーYA!)
田中 芳樹
理論社 2007-07

by G-Tools

19世紀のイギリスを舞台にした冒険活劇。登場人物はイギリスの文豪ディケンズ、デンマークの童話作家アンデルセン、そして彼らをお守り(?)する会員制貸本屋の社員ふたり。うち一人はうら若き乙女。
これも「モーツァルトは子守唄を歌わない」と同じく、歴史的史実をあちこちに散りばめながら、上質なエンターテイメントになっている。本筋も面白いが、あちこちに散りばめられたトリビア的知識がとても楽しい。これを読んだら、イギリスの近代史は押さえられるんじゃないかと思うほど。


 この物語は、ディケンズの屋敷にアンデルセンが立ち寄ったときに起きた事件として描かれている。アンデルセンとディケンズの間には実際に親交があり、アンデルセンが「お好きなだけ滞在してください」という社交辞令を真に受けて5週間もディケンズの屋敷に居座ったのも事実であるらしい。
 もともとアンデルセンという作家は、今風に言うと「困ったチャン」で、空気を全く読まずどこまでもマイペースで突き進み、まわりの人々を困惑させたという。それでもやはり「困ったチャン」系だった某ドイツ人作曲家と同じく、その作品は世界中の人に愛好されている。人間は不可思議な存在だなあとつくづく思う。
 それで本作にもそのアンデルセンのドタバタぶりが出ていて楽しい。豪気で気難しそうなディケンズの雰囲気も良くて、各所に散りばめられたトリビアなネタと合わせて、あたかも当時のイギリスに迷いこんだような気になる。
 話の筋は、それはもう王道をゆくエンターテイメント。謎があって、悪役がいて、戦う主人公がいて、得体のしれない怪物が登場し、最後は爆発ですべてが消えてしまう……みたいな。
 映画で見てみたいな、とちらりと感じたが、すぐにこれは文章で読んだほうが面白いと思い直した。語りは一人称で、ニーダム老人の回想録という形をとっているため、映画にしてしまうと彼のつぶやき、というか現在と過去(もちろんどちらも19世紀ではあるが、科学技術の進歩は雲泥の差)を比較する面白みが生かされない気がする。

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