4062137003 獣の奏者 I 闘蛇編
上橋 菜穂子
講談社 2006-11-21

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予想通りたっぷり楽しめた。守り人シリーズではおばさん(?)と少年の組み合わせだったのが、本作ではおじさんと少女の組み合わせ。
主人公のエリンは10才のときに母親と悲しい別れをして天涯孤独の身となるが、かつて優秀な教導師(教師・教授)だったジョウンに拾われ、彼とともに蜂飼いをしながら成長する。時がたちジョウンが自身の健康に不安を感じて今後の身の振り方を考える必要が出てきたとき、エリンは母と同じ「獣ノ医師」になりたいと望んだ。そして、そのための学校に入ったところまでが本作に書かれている。いわばエリンの生い立ち編。


この物語に登場する「獣」はかなり特殊で深い意味が与えられている。
たとえば「闘蛇」。これは大公の領地で戦闘用に飼育されている巨大な竜のような生き物。水陸両用、しかも凶暴さはほかに並ぶ生き物はいない。が、ある音に弱く、人間が特別な笛を鳴らすと硬直してしまう。そのすきに背にまたがり、角をしっかり持てば操縦が可能になる。もちろん飼育には特殊で高度な技術が必要で、エリンの母は闘蛇専門の獣医師だった。
さらにもう一種類、「王獣」という生き物がいる。これまた白い羽毛に包まれた巨大な肉食の鳥類で、闘蛇さえも餌とする。王獣はリョザ神王国の真王の象徴であるとされ、王宮で大切に飼われている。エリンが入学したのは、病んだり傷ついたりした王獣を世話する施設に併設された獣医学校だった。
両者に共通するのは、どちらも深く政治に関わる獣だということ。飼育に不備があればものの喩えでなく、本当に首が飛ぶことも有り得るわけで、そのため闘蛇や王獣の世話をする獣医師になるのは最高の栄誉であるとともに命がけの仕事になる。エリンが関わろうとしているのはそういう世界。
今回の話で何が面白いかって、エリンの性格。一見物静かで何事もそつなくこなすように見える彼女の頭の中は、いつも生き物に関する好奇心でいっぱい。なぜ蜂は女王蜂のもと、一糸乱れぬ行動をとるのか、どうやって花の蜜がはちみつへと変化するのか、不思議で知りたくてしかたがない。
そんな彼女が生き生きと羽ばたく野生の王獣と出会ったらどうなるか。答えはおのずと出てくるもの。
エリンは知性で勝負するタイプのヒロインだ。武力でも魔力でもなく、知力。彼女の徹底した観察眼と知識欲は、上橋製ファーブルですよ、ほんとに。
こんなヒロインを生み出した作者もまた、学究の徒で文化人類学者としてフィールドワークを重ねている。経験は強みだなあ。

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