4062137011 獣の奏者 II 王獣編
上橋 菜穂子
講談社 2006-11-21

by G-Tools

獣ノ医師養成学舎で順調に才能を伸ばし、トップで卒業して教導師となったエリンは、その才能のために政治的陰謀に巻き込まれてゆく。
エリンは王獣の幼鳥を救っただけでなく、互いに意志を通わせるまでになる。最初のうち伏せておいたこの事実はやがて真王の耳に入るところとなり、意に反してエリンと王獣は真王の勢力に利用されてしまう。ついには国の命運をかけた争いの場にまで立つことになるのだ。
丁寧な描写が魅力的だった闘蛇編に対して、こちらは次々と展開する事件のつながりで読ませる構成。あれの黒幕は誰なのかとか、エリンが聞かされた真実は何だったのかとか、真王(ヨジュ)と大公(アルハン)の勢力は本当にぶつかるのかなど、あれこれ振り回されて気がついたらラストだった。
そのラストだが……エリンの生い立ちと性分を考えれば納得はできるけれども、できるものなら三冊目が欲しかった。続きが読みたいのではなく、権力をめぐるドロドロの陰謀を書くにはちょっと枚数が足りなかった気がするから。
真王の人となり、大公側の動きとか、陰謀をかぎつけた「堅き楯」のメンバーの動きとかもっと読みたかった。


それにしても、エリンは徹底して学者だ。彼女の望みは、どんな権力にも従わず、ただ王獣の神秘を知るために自分の才能を使うこと。そして自然の神秘を子どもたちに教え伝えること。
それまで危うい均衡を保っていた大公と真王の勢力がぶつかり内乱が起きようとするその時になってさえ、彼女の冷徹な観察眼は変わらない。人間の愚かさを見抜いて虚しささえ覚えてしまうのだ。
この物語に登場する闘蛇も王獣も、強大な力と知恵を持ち、人間と意志を交わすことができる。が、そのためにかつて戦争の道具として用いられ、一国を滅亡に導いてしまった。生き残った闘蛇使いや王獣使いたちは、二度とそのような悲劇を起こさないよう、人と獣が触れ合えないように掟や規範を作った。
ところが数百年ののち、エリンという天才的な獣ノ医師の出現で彼らの努力は泡となってしまう。彼女は独力で獣と意志を通い合わせる方法を編み出したのだから。
エリンにとっては、掟も規範も××食らえの代物だ。どんな邪魔立てが入ろうと、彼女はひたすら王獣について知りたい。人とどこまで意志の疎通ができるのか、逆に分かり合えない領域はどこなのか。時には命をかけて彼女は王獣の謎を追う。
たぶん、エリンは信じていたのだと思う。過ちを繰り返さないためには、人と獣を遠ざけるだけではいけないと。互いに理解しあった先にこそ、悲劇を起こさないための共存の道が開けているのだと。
実は、この構図が現れているのがもう一箇所あって、それは真王と大公の関係。「穢れなき清らかな」真王を、大公があえて「穢れを背負って戦う」ことで成り立っていた国が崩壊しかけたそのとき、次世代の真王と大公は、守り守られる関係をやめ、水面下での対抗意識も捨て、互いに手を取り合うことで新しい国づくりをしようとしたのだった。

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