4023304077 地下鉄のミュージシャン ニューヨークにおける音楽と政治
宮入 恭平
朝日新聞出版 2009-01-20

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NYの地下鉄駅構内で演奏するミュージシャンの様子を観察したり、実際に話したりアンケートを取るだけでなく、彼らを取り巻く聴衆や地下鉄関係者、さらには警察にまで同じように調査して、地下鉄構内における音楽演奏のあり方を社会学的に考察した本。単なるルポルタージュの類とは違います。


地下鉄駅構内で音楽活動を行うミュージシャンの立場は、大道芸人と良く似ていて、立ち寄った乗客(中には常連もいる)の寄付を稼ぎとしている。違う点といえば、地下鉄ミュージシャンの何割かは演奏の練習を兼ねていて、しかもスカウトされるチャンスを狙っているということだろうか。
また、こうしたミュージシャンのほとんどが、南アメリカ系の移民か、アフリカ系アメリカ人(黒人)であり、社会の最底辺に位置する人たちであるということも、大道芸人=マージナルな(社会の辺縁にいる)人々という構図と良く似ている。
旅回りの芸人や吟遊詩人の歴史が長いヨーロッパではこうしたミュージシャンに対して寛容だというが、現代のNYではどちらかというと冷遇されている。しかし彼らは度重なる妨害や嫌がらせにもかかわらず活動をやめようとせず、ドライになりがちな大都市の生活にちょっとした潤いを与えている。音楽を通じて心が癒されたり、見知らぬ人同士が声を掛け合ったり、小さな思いやりを見せたり、また音楽が流れている付近では犯罪の発生率も低いという。
効率化が求められ、人間性が削ぎ落とされそうな社会にあって、こうしたミュージシャンたちは人間らしさを取り戻すため、社会の最前線に立つ砦なんだろうか。そして社会の底辺でどうにか踏ん張っている彼らにとっても、音楽は人らしさを保つ最後の砦になっている。

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