4094510729 されど罪人は竜と踊る 1 ~Dances with the Dragons~ (ガガガ文庫)
浅井ラボ
小学館 2008-05-21

by G-Tools

竜と剣と「咒式(じゅしき)」という名の魔法が登場するファンタジー。現実世界の地名を置き換えて多少手を加え、そこに竜を放り込んだ異世界で物語は進む。主人公は主に荒事専門のなんでも屋を営む攻性咒式士のガユスとギギナ。依頼に応じて竜を狩ったり危険物輸送の警護をしたりする。
設定そのものはとてもスタンダードだが、戦闘は苛烈を極め、「予定調和? なにそれおいしいの?」というシビアなストーリー展開、それとは逆に細部まで調和している世界設定が魅力的。
やたらに分厚い文庫本だけど、それはたぶん咒式が発動するさいの化学的説明に枚数を割かれているからじゃないだろうか。もし魔法を化学作用や物理法則の観点から説明したらどうなるか、という無謀かつ興味深い試みにものすごく力点が置かれている。
長い話ではあるが、筋そのものは、語り手かつ主人公であるガユスが頭脳明晰なおかげで、とても追いやすいし、陰謀のしくみもわかりやすい。あまりに筋道だっていて、時々先が読めてしまうのが難点であるぐらい。
この話に登場する竜族は、ゲド戦記の竜によく似ている。圧倒的な力、知性や独自の言葉を持つ点、人間を一段低い存在だと見なしつつ共存の道を探らなくてはならない点など、考えるほどそっくりだ。ただし、1匹だけ例外的な竜がいる。どこまでも人間でありながら竜に匹敵する力を振るい、節操を持たないという点で本来の竜よりやっかいな奴が。それが誰であるかはあえて書かないけれど、作者はどこまでも甘くないなぁと感嘆した。


仕事とはいえ、迂闊にいわく付きの黒竜を倒してしまったがために、ガユスたちは政治家の陰謀に巻き込まれ、命がけで(本当は蘇生咒式を使わなければ3度は死んでいる)平穏な生活を取り戻さなくてはいけなくなった。1巻目はそれだけの筋書きだけど、その中にどれほどの絶望と皮肉と生きることへの強固な意志が詰め込まれているのだろう。
元来戦闘を天職とするドラッケン族のギギナはともかく、攻性咒式士としての戦闘能力以外は限りなく一般人に近いガユスが、恋人とまともにデートができる日常を取り戻すためだけに何度死にそうな戦いをくぐり抜けなればならなかったか。そうしなければ命がなかったとはいえ、なぜ恨みもない幾人もの刺客を死に追いやり、気の毒な竜を倒し、旧友を2重の意味で失わなくてはならなかったか。
そのすべての理由が実は1人の政治家にあり、彼の容赦ない陰謀の数々がすべて国民の平和な暮らしを保つために為されているのだと言われ、実際にその通りだと気づいてしまった日には怒りの矛先をどこへ持って行ったらいいのか。実にやりきれない。そのやりきれなさにはひどく共感を覚える。
例えば、永遠に終わらない主婦の仕事を片付けつつ、時間をひねり出し心身を削る思いで作品を書き上げては公募に挑戦し、その結果に落胆する日々と同じくらいやりきれない。

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