4877867295 友ちゃんと砂糖そして… (鈴の音童話)
渡邊 るり子 山中 冬児
銀の鈴社 2010-04

by G-Tools

 これは太平洋戦争直後の北九州を舞台にした物語。
 いわゆる戦争物の児童文学というと、疎開先での生活や空襲をくぐり抜けて生き延びた話、原爆体験を元にした物語が多く、悲惨さや重苦しさが前面に出てしまいがちなのだが、この物語にはそういう重苦しさがない。代わりに、心に深い傷を抱く他者への共感と思いやりがこの物語の軸となっている。
 地方の比較的裕福な家に生まれ、家も家族も失わず食糧難も体験せずに終戦を迎えた正子の家に、14歳の「友ちゃん」が住み込みの使用人として入ってくる。今で言う家政婦とやることはほぼ同じだが、立場的にはその家族に仕える奉公人といった方が近い。
 「友ちゃん」はどうも身寄りがないらしく、市の施設に引き取られていたというのだが、見るからにおどおどとした奇妙な子で、しかもとんでもない奇癖を持っていた。それで家族中ふりまわされることになる。友ちゃんも悪いことをしていると知りながら、どうしても止められない。というのも、奇癖の理由は、戦争にまつわる大きなトラウマにあったからだった。


 友ちゃんの過去と過去から来る大きなトラウマを知ることで戦争の惨さを知り、彼女を支えようと心に決める正子の姿は、ちょうど私たちが戦争の話を聞いてその酷さに思いをはせることと似ているが、それよりもずっと生々しい体験だ。なにしろ、毎日身の回りの世話をしてくれるごく身近な人が大きな傷を抱えて声にならない叫びをあげているのだから。
 でも、正子もその家族も、友ちゃんには「昔の話を聞いてきた/知ってるよ」なんておくびにも出さない。知らないふりをして友ちゃんを支えようと決意する。そこがとてもいいと思う。当人にとっては、傷が深ければ深いほど、人に触れられるとつらい。ただ温かく見守ってもらえれば、それだけで充分救いになる。現に、正子の家に来た友ちゃんは、一年後に見違えるほど健康的な娘さんへと育っていた。
 今の時代なら、友ちゃんのような子は間違いなくカウンセリングのお世話になり、投薬治療さえ受けるかもしれない。でもそれでは、友ちゃんをあれだけ生き生きさせることはできないだろうと思うのだ。

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