4062125366 アフターダーク 村上春樹
講談社 2004-09-07

by G-Tools

1Q84の3冊目が出ているこのご時世にアフターダークを読む。私の場合、村上作品は順番に読まないと理解が難しくなるので、焦らず過去作品から消化する。
東京の、ある秋の一夜を切り取った物語。日付が変わる直前から夜明けまで。
とても優しい物語だった。眠れなくて悶々と夜を過ごす人に安眠をもたらしてくれるような優しさ。
軸となるのは浅井マリとエリの姉妹。あまり仲の良くない二人の間に高橋という青年が立つ。彼らを中心にいくつかの人間模様が断片的に描かれてゆくが、その模様はつながりそうでつながらず、でも世界の深いところではちゃんとつながっているという不思議な話。
夜の闇の深さが暴力的存在を通して生々しく描かれている分、夜明けを迎える感動もまた深い。闇と邪悪なものを打ち払う光の力は文字通り神々しい。


特徴的な「僕」語りから抜け出し、基本的に三人称で語られる作品だが、面白いことに「私たち」といういわゆる神の視点がはっきりと打ち出されている。「私たち」は物語の世界を見るだけで決して干渉できないという設定で、それまはるで異世界、あるいは宇宙からの訪問者が人間を観察しているかのよう。読み手の視点はその謎の訪問者と一体化せざるを得ないので、すると、人々の生活を実験対象か何かのように観察しながら読み進めることになる。
そこから浮かび上がってくるのは極彩色のタペストリーのような世界。世界を宙に浮いたタペストリーだとするなら、その下には暴力がうごめく闇の世界があり、上には許しと癒しを与える光の世界がある。そしてたまに誰かがタペストリーの中から飛び出して裏側から世界を眺め、戻ってくるのだ。
以前の村上作品では、タペストリーの中から飛び出したまま戻ってこられなかったり、ひも一本でぶら下がった状態のまま放置されたり……というラストが多かったけれど、最近はちゃんと自力で戻れたり、誰かが手を差し伸べて連れ戻してくれたりするようになった。
この作品で言えば、飛び出してしまったのが姉のエリで、手を差し伸べるのが妹のマリなんだけど、マリは最初、自分にその力と資格があることに気づかず、一晩のうちに起きた奇跡的ないくつかの出会いのおかげでそのことに気づいてゆく。長かった夜が明け、世界の深い場所で二人の手がつながったと思えるその瞬間はもう、言葉にできないくらい温かな気持ちに満たされる。
ああ、村上さんもとうとうここまで来たんだ……と感動しつつ、読み終えた夜は久しぶりにぐっすり眠れた気がした。

広告