4591116913 忍剣花百姫伝7 愛する者たち (Dream スマッシュ!) (Dreamスマッシュ!)
越水利江子
ポプラ社 2010-03-03

by G-Tools

ついに最終巻です。
伊留加の深い慈悲心に涙して下さい。紫苑の限りない癒しの力を尊んで下さい。
魔王はついに倒されますが、八忍剣にも犠牲者が出ます。
明らかにネタバレしている感想なので、たたんでおきます。


スケールが大きく、なおかつ複雑な人間関係を秘めたこの物語がどうやって消息に向かうのだろうと、期待に満ちてページを繰れば、本当に色んな意味でびっくりすることばかり。
最終決戦の地が未来世界なのは予想の範囲内だったとしても、場所がすごい。日本を飛び出し、なぜか中近東なのだ。未来のその地は核爆弾らしきものによって地上に人が住めなくなり、地球の放つ気は弱まり、あるのは魔王の居城のみ。生き残った人々は地下に大都市を形成しているというとんでもなさ。いやでも、イラ○近辺にに核爆弾が……というのは洒落にならないので薄ら寒い。
そんな異国の地へ八忍剣+αが飛ぶ。言葉の壁は水耳で解決(忍法は便利だな)。そして敵が共通していることがわかって、無事に歓待してもらえる。
八忍剣はどこへ行っても彼ららしい振る舞いをするので、和んでしまうこともしばしば。特に夢候! この人は実に懐が深いというか、徹頭徹尾「女性には優しく」「女性は絶対守る」という態度で物事にのぞむので好感度高し。今回は多忙の捨てちゃんに代わり、火海姫が漫才(?)の相方をつとめる。実に楽しかった。
ここからが本題。
魔王の正体には鳥肌がたった。素晴らしいとさえ思った。彼がもしただの欲望・悪意の塊だったら人類殲滅をもくろむ存在としては弱いなあと思っていたけれど、あれほどまでに人間の残酷さ、愚かさを魂にこれでもかと刻み込まれているのなら、「地球のために人類を消す」と言い出しても納得してしまう。
だからこそ、八忍剣の一人である伊留加が、なぜあのような行動をとったのか痛いほどよくわかる。彼は魔王の深い孤独に強く共鳴した。一度守ると決めた魂を最後まで、己の命をかけて守り通した。伊留加が救いきれなかった部分は癒し手の醜草こと、紫苑が引き継いでくれた。主人公の百花姫が、なぜ直接魔王に手を下さなかったのか、あるいは癒しの重要な部分に関わりきれなかったのか、という突っ込みはナシの方向で……。彼女は己の中の「魔」と戦うので必死だったのだ。癒しの力を持つ一方で魔の力も持つ、それが人間というもの。(そういう意味で言ったら、癒しの技を持ちながら魔道に落ちた美女郎はこの物語を非常に良く象徴しているキャラクターだと思う)
紫苑といえば、彼は最後までへたれを貫き通した。相変わらず高所恐怖症だし、剣や槍からは逃げるのが一番。それさえも時には間に合わず他の剣士に守ってもらう。紫苑自身、臆病で守ってもらうばかり自分がイヤだったけれど、何ともならない。
そんな彼がありったけの勇気をかき集めたのが、魔王の死後もなお暴走を続ける怨念を鎮めるとき。鎮められなかったら世界が滅びてしまうというギリギリのところだった。
紫苑はバトルはからきしだけど、癒しの力は超一流。花百姫の力を借りて敵地の中心に乗り込み、自分の命をすべて削って怨念を浄化する。その時、ようやく星衣の力が目覚め、癒しの風を干からびた大地に、地球のあらゆるところへ届けることが叶う。大役を果たした彼はご褒美として、ちゃんと帰りたい場所・人のところへ帰ってゆくのだった。紫苑は最後まで戦えなくてよかったのだと思う。人を切ることのできない彼だからすべての怨念を癒すことができたのだと思う。
最後に花百姫と霧矢はどうなったかといえば、それは読んでのお楽しみ。時空を超えて引き合う魂同士、とだけ言っておこう。
ただ、これだけのスケールの物語を、たった354ページで収めてしまったのがとても勿体ない気がする。一ファンのわがままとしてはですね、せめてその1.5倍の分量でじっくり楽しませてもらえたらと……。だって、せっかく伊留加という素晴らしいキャラクターが謎のベールを外すのに、登場シーンが少なすぎる!(それですか) 魔王ヤシュムと彼の苦悩にもっと寄り添いたかった……。

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