4309019803 「悪」と戦う
河出書房新社 2010-05-17

by G-Tools

タイトルはごっついけれど、「世界」を救うための戦士として選ばれたのは3歳の男の子、ランちゃん。もちろん3歳児のスペックで戦うには無理があるので、精神面を思春期レベルまで上げてもらい、導き役のマホさんの助けを借りることになる。でもランちゃんは本当に強い。


世界のはざまで、ランちゃんはいろんな立場の男の子になる。そして魂の片割れとも言えるミアちゃんを、それこそ「悪」に追い詰められてのっぴきならない立場にいる彼女を救うことに全力を傾けるのだ。何度も何度も。そうすることで「悪」は追い詰められ、むきだしの姿を現す。そこを捕らえたランちゃんとマホさんは「悪」の本体を世界から追い払うことに成功する。でも「悪」は消えない。暗くて寂しい場所へ帰っただけだから。そしてそれが本当に正しいことかどうか悩むランちゃんが愛おしい。
戦う相手は、マフィアのボスや私利私欲に走る官僚といった具体的な存在ではなく、とても概念的な「悪」。村上春樹の世界にとても近いと思う。両者ともに同じものを見てそれぞれ違う表現方法で書き表した、みたいな近さ。
村上氏の短編集「神の子どもは皆踊る」の中の「かえるくん、東京を救う」の中ではかえるくんの戦いは描かれていなかったが、もし描かれていたらランちゃんの戦いとよく似ているのではないかと思った。
どうしてランちゃんが正義の味方に選ばれたのか。それはランちゃんが世界救出の旅に踏み出した最初の一歩で答えが出ている気がする。
ランちゃんは、マンションを出たかと思うと、ごみ集積所のことが気になって、お母さんと管理人さんがやっていたように燃えないゴミを分別するのだ。

 三十分ぐらいかかったかも。でも、ゴミ集積場はすっかりきれいになっていた。こんなことしてていいのかな。ぼくはそう思った。ゴミの分別なんかしてる場合じゃないよね。それで充実感じてる場合じゃないよね。でも、したかったんだもん。

「でも、したかったんだもん」とランちゃんに思わせる何か。これが後々の冒険でずっとコンパスの役割をしてくれる。それを、確かヘミングウェイは「良心」と呼んでいたはず。

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