4338144319 ミムス―宮廷道化師 (Y.A.Books)
リリ タール Lilli Thal
小峰書店 2009-12

by G-Tools

一国の王子が策略にはまり、敵王に仕える宮廷道化師の弟子となってしまう話。そのフロリーン王子の師匠が「ミムス」。
宮廷道化師といえば、家畜同様の扱いを受けることと引き替えに、毎晩のように王に呼ばれ、芸を披露する際、臣下をからかったり時には王を侮辱することさえ許される。王の規律以外、何者にも縛られず(もちろん神にさえ!)、自分の芸と頭脳だけを頼りに生き延びる、不自由かつ自由な存在。


本書の大部分は、フロリーンがミムスから芸を学び、敵のもとで生き延びるすべをたたき込まれる描写で占められている。フロリーンの成長と同時に、城の厨房や王族の居室、訓練する兵士たち、王がたびたび催す宴会とそのメンバーの様子、地下牢と拷問部屋の様子までもが事細かに描き出され、読んでいると、あたかも中世ヨーロッパ世界に放り込まれたような気分になるのがいい。
最後は援軍が来て、敵の城は見事に崩れ落ち、フロリーンと地下牢に囚われていた父王は助け出されるわけだが、それまでの紆余曲折の巧みさは(「ドキドキハラハラ」と言い換えてもいいけど、それ以上のもの)はもう、物語好きにとってはたまらない。魔法はもちろん、剣さえ封じられているフロリーン王子がどうやって苦境を乗り越えてゆくのか。
もうひとつ「おお」と感動したのが最後のミムスの大活躍。
彼はにらみ合う二人の王を前に、一世一代の大芝居を打ち、両家の家族を誰一人殺させることなく、引き分けという形で「道化の和平」を結ばせてしまった。
時代は中世。日本の戦国時代と同じく、敵国を落とそうと思うなら、敵国の大将及びその家族は皆殺しにするか、命は救っても軟禁状態にしてしまうのが当たり前の世界で、そういうことをする。
で、フロリーン王子がしかるべき場所に戻った後のミムスはどうなったか。
フロリーンの国で仕えることを断って、以前と同じ君主、同じ生活を選び、挨拶に来た王子を冷たくあしらって追い返す。名誉や褒美はもちろん、親愛の情や敬意まで足蹴にして見せるしたたかさ。最後までミムスはミムスの道を貫いたのだった。

「いいかげんに、わかったらどうだ!」唐突にミムスは立ち止まる。「おい、こっちを見ろ! よく見ろってんだ!」彼は自分の衣装をつまんだ。「これはなんだ? これはいったいなにか、いってみろ!」
「道化の、衣装」
「そうじゃねぇ! これはな、竜の皮なんだよ。十五年かけて、どれだけこいつが分厚くなったと思う? 今じゃな、なにがあってもびくともしねぇ、ガチガチに頑丈な鎧なんだ!」
 そういう言葉とは裏腹に。ミムスの表情は弱々しく、無防備に見えた。だが、次の瞬間、またいつもの仮面が顔を覆った。

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