4265820255 モーツァルトはおことわり
マイケル モーパーコ マイケル フォアマン
岩崎書店 2010-07-21

by G-Tools

若手の雑誌記者が、大物バイオリニストのインタビューを引き受けることになった。彼は気むずかしいことで有名で、プライベートな話題を嫌い、特に「モーツァルト」については決して尋ねるな、話題は音楽関連にしぼるのが無難、という暗黙の了解がある。
ところがインタビューにのぞんだ若手記者は、緊張のあまり用意してきた質問をすべてすっ飛ばし「モーツァルトのことは質問するなと聞いているので、決してお尋ねしません」「なぜバイオリンを弾くようになったのですか」と、直球ストライクゾーンのど真ん中!みたいな質問をしてしまった。黙り込むバイオリニスト。彼は何と告げたのだろう。


この作品の中には「秘密は嘘と同じ」というフレーズが繰り返し登場する。
たとえ、それが非常につらい過去の出来事で、つらすぎるがために、誰にも打ち明けられないでいる秘密だとしても。
この物語の秘密は、第二次世界大戦中のユダヤ人の記憶にまでさかのぼる。ナチスに捕らえられたユダヤ人が収容所に連れてこられたとき、奇妙なことにモーツァルトの演奏で迎えられたという。その後、「シャワー室」(ガス室)行きと収容所内行きとに分けられた。
モーツァルトを演奏していたのは、先に収容されていたユダヤ人の中で、音楽ができる人たちの集団だった。演奏することである程度は命を保証された人たち。さらにガス室に送られる同胞を目の当たりにしなくてはならならず、彼らの後ろめたさはいかほどだっただろう。
収容所を生きて出られたにしても、音楽に関する記憶をすべて封印したくなるかもしれない。
それでも、秘密はいつか明るみに出される。
二度とバイオリンを持たないと誓い、床屋に転身した元バイオリニストにも息子が生まれた。決してバイオリンには触れさせなかったのに、息子はいつしか隠れてバイオリンを習うようになった。親にとってそうであったように、息子にとってもバイオリンは魂の友だったから。
才能を現した息子は両親にバイオリンの腕前を披露することになる。息子が秘密を打ち明けたのだから、親もそれに答えなくてはならない。そうして秘密は昇華される。
この物語のテーマが、ユダヤ人収容所の悲惨さを伝えることか、人智を越えた音楽の魅力と力を描くことにあるのか、それとも秘密をめぐる親子の葛藤と和解にあるのか。読み手によっていろいろあると思うが、重い内容にもかかわらず、読後感が非常に温かであること、それだけは保証する。

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