アラン・ワイズマン
早川書房
発売日:2008-05-09

タイトルを見て、人がいなくなった後の世界をSF的に描くのかと想像していたら、実際は環境問題のドキュメンタリー本だった。これはいい意味で裏切られた。

もし、ある日突然、すべての人類が地球上から消滅したら(人類だけがいなくなる、という設定がポイント)残された自然はどんな振る舞いを見せるのかを予測することで、人間が環境にどれほど影響を与えているかを検証する。
陰を追究することで陽を浮かび上がらせるこの手法は見事だと思う。

人類がいなくなることで、地球上の物質が辿る変化は、消えるか存続するかなのだが、消えるにしても非常に時間がかかるもの、存続するにしても変化を余儀なくされるもの、いろいろある。

☆人が消えるとほどなく崩壊・消滅するもの
都市。コンクリートや金属で出来た建造物は雨風や植物の浸食を受けてじきに形を無くしてしまう。

☆消えるまでに時間がかかるもの
放射性物質。一万年後の人類のために、放射性廃棄物を埋めた箇所を示す標識をどうしようか、知恵を絞る学者がいる。笑えない本当の話。

☆消えるまでに数百万年単位で時間のかかるもの
プラスチック製品。現在の地球には、プラスチックの分子を分解できる微生物がいないため、それらが進化によって出現しない限り分解されず、どんなに細かくなろうとも必ず地球上のどこかに存在する。例えば生物の消化器官の中とか。

☆地球が寿命を迎えるまで存続するもの。
生命体。温暖化が進もうが、放射能が地下から漏れ出ようが、毒性物質が拡散しようが、生命体は状況に合わせて変化し、環境を克服することができるので、たとえ人類が滅び、現存する動植物が絶滅したとしても、新たな種が生まれ、地上でこの世の春を謳歌することになる。

それはもうスケールの大きな検証で、人類は地球の歴史からすれば、ほんの一瞬しか存在していないこと、今でこそ多大な影響を与えているが、それも長い目で見れば地球規模の変化の波にのまれてゆくことがわかる。
それなら、もう、環境問題に取り組むのはやめて、滅びるに任せればいいじゃん、という話もなくはない。例えば、地球のためには人類は滅びた方がいいと主張するグループは実在するし、全世界で「一人っ子政策」を実施すれば、現在各地で人々を悩ませている貧困・飢餓・戦争は劇的に減る、と計算する学者もいる。
しかし当然ながら、少しでも人類の絶滅を先送りにしようとして自然との関わり方を研究する学者の方が多い。それは「種の保存」という生物の大前提に照らしても、まったく不自然ではないのだ。

扉ページにマーラーの「大地の歌」(1楽章)からの引用がある。本書を最後まで読み終えた後に、改めて読み返すと実にふさわしい内容で感動すらした。同時に李白の洞察の深さ、それを自分の曲に取り入れたマーラーの諦観の深さにも思い至って切なくなった。

大地は永遠に蒼く、
大地は長く揺るがず、春に花を咲かせる。
だが人間よ、お前はいつまで生きるのか。

原詩:李白
翻訳:ハンス・べートゲ
『中国の笛 大地の哀愁に寄せる酒の歌』より

広告