184507968X The Ice Bear
Jackie Morris
Frances Lincoln Childrens Books 2011-03

by G-Tools

第18回いたばし絵本翻訳大賞の課題作。民話をベースにした物語で内容が深く、訳していてとても楽しめた。

あらすじは、
北極圏周辺で暮らす、イヌイットと思われる夫婦のもとに子どもがやってくる。ずっと子どもが欲しくてもなかなか授からなかった夫婦は、くまの毛皮にくるまれて届いたその子を育てることにする。7年後、すくすく育ったその子は、カラスと遊んでいるうちに迷子になり、氷原をさまようが、凍死する寸前、白熊に助けられる。そして彼が連れていかれた先は、なんと生みの親である母グマのところだった。彼はまだ赤ん坊の頃、カラスにさらわれて人間のもとへ連れていかれたのだった……という話。

クマと人が交わる話は、確かアイヌ民話の中にもあって、クマは寒い地方で生きる人々にとって特別な意味を持つのだなと思ったし、知恵を象徴するカラスがトリックスター的な働きをするのもまた、神話や民話によくあるパターン。また、古い民話や神話の中には、クマでなくとも人間と動物が言葉や種族の壁を乗り越えて交流する話がいくつもある。寓話でありながら…いや、寓話だからこそ、ある種の真実を含んでいる物語だ。

パウロ・コエーリョの「アルケミスト」では、錬金術師を目指す主人公が、あらゆる命と通じああう事のできる「ひとつの言葉」を取得するエピソードが出てくる。その言葉を使うと、動物は愚か、風や砂とも意思疎通が可能になるといい、実際に主人公は風と対話をした。

この”The ICE BEAR” でも、冒頭は、「昔、人と動物は同じ立場で互いに通じ合うことができ、言葉には特別な力があった」という意味の文章から始まる。「アルケミスト」に登場する「ひとつの言葉」と同じ質のものだ。

遠い昔、本当に人間は、言葉とは違うレベルのコミュニケーション方法を持っていたのだろう。それを使えば森羅万象と通じ合える、というやつを。かつては誰もが持っていたスキルだったのが、時代が下るにつれ、シャーマンや魔術師の専売特許になり、今ではファンタジー作品や民話・神話の中にその名残を留めるだけになってしまったのだろうなぁ。

あ、でもペットがこれだけ流行っているということは、やはり人は言葉に頼らないコミュニケーションを必要としていて、一番手軽にわかりあえるのが犬やネコなのではないかと、今、となりでぐーたら寝ている犬のイビキを聞きながら思ったのだった。

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