忍剣花百姫伝(1) (ポプラ文庫ピュアフル)
忍剣花百姫伝(1) (ポプラ文庫ピュアフル)

この表紙、カッコイイです。CDで例えるならジャケ買いしそうな勢いです。
実は、花百姫伝は先に出ているDreamスマッシュ版で最終巻まで読んでいるんです。その時の表紙及び挿絵もとても素敵でした。しかし、スカイエマさんのイラストはまた、独特の無骨さが出ていてより渋く大人向けな感じがします。もともと、この物語は児童書として発行されましたが、ピュアフルから出たということは、さらに上の年齢層を読者に想定していることになります。内容的にはむしろ最初からそうできれば良かったのに、というぐらい複雑で読み応えのある設定がなされています。それで、一度読んだにもかかわらず、買いましたよ。自分が読み終わったら、息子の本棚にこそっと忍び込ませます。

ところが。確かに最終巻まで読んではいますが、なぜか第一巻だけは未読だったことに気づきました。どこで取りこぼしたのか。それで新鮮な気持ちで物語の始まりを読むことになりました。舞台は戦国時代の日本、剣と魔道と愛の物語です。既知の武将は出て来ませんが、「五鬼四天」と称された忍びの者たちが時空を超え、壮大な戦いを繰り広げます。

この第一巻を読んでいてずっと何かが引っかかる、と思っていました。剣と忍術をもとにしたファンタジー世界だということはよくわかりますし、一般の人たちに知られない謎の城や組織がある、という設定も問題ありません。しばらく考えてはっと気がついたのが、城の存在理由です。花百姫に登場する城は強力な城ほど人里離れた場所にあり、簡単には見つけられず、忍びの者たちの活動拠点となっています。
一般的には忍者というのは、主人のために情報を集めたり、敵を陥れる作戦を講じたり、時には暗殺までやってのけるという、戦いにおける特殊技能集団として認識されていると思います。実際、この物語に登場する忍びたちも卓越した技量を持ち、主に対して篤い忠誠心を持っています。
気になったのはこの先です。忍者が仕える主はたいてい自らの勢力を伸ばすとか、天下を狙うとか、あるいは政敵に足を救われまいとしているでしょうが、この物語に出てくる忍者たちが仕える主(城主)はそういう俗世間的なこととは無縁に見えるのです。これは戦国時代にあって、非常に奇異ではないでしょうか。
では何のために城と城を守る戦力(忍者たち)があるのか。そのヒントは、花百姫に剣術を教える時の神内小太郎のセリフにありました。

 おたがいの技量がせまった者同士の対決に、わが肉を斬らせて敵の骨を断つという流派もあるが、たびたびそのような戦いをせねばならないとしたら、それはその者の技量不足だ。
 天地剣のおしえはちがう。
「天生の剣」を信条とする。「天生の剣」は、すなわち「どんな場合もひとを生かし、みずからも生きて帰る天生の剣」をさしている。
 おのれの命をかけるのは下の下。敵を殺すのも下。敵を殺さず倒し、みずからも生きてもどるのが最高の秘術である。

彼らは命の奪い合いを否定します。しかし、乱世の世のこと、力がなければ自分の信条どころか身も守れません。彼らは自由を守るため、大切な存在を守るために戦力を持っています。誰も侵略せず、誰にも侵略されないために。

忍剣花百姫伝には、血なまぐさく、時には惨たらしい戦いが何度も登場します。それでも希望を持って読み進むことができるのは、この天地剣のおしえが物語の真ん中を貫いているからなのでしょう。

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