カテゴリで言えば、これは戦争児童文学に入るのだろう。だけども、これは戦後しばらくしてからの世の中の様子をリアルな子どもの目で見ている、という点と、「戦争は悲惨だ」とか「戦争は悪だ」(だから平和な時代に感謝しよう)というまとめを一切望んでいない点で他の同種の作品とは違うように思う。では何がテーマか。それは「各務さだ」という一人の女性の人生を知ってほしいと、そのことにつきると思う。

太平洋戦争後の北九州の田舎町での出来事が書きつづられており、多分に作者の子ども時代が反映されているが、ここで描かれている人間の闇は、日本の特定の時代と場所に現れたものではなく、もっと普遍的に存在する。それだけ深く掘り下げられて人間が描かれているということだ。

引揚者の苦難(日本に戻ってきてからでさえ彼らはひどい待遇を受けたが、それは前作『友ちゃんとと砂糖、そして……』でもよく描かれている)、脱走した進駐軍兵士の生々しいうわさ話、土地を取り上げられ苦労を強いられる地主と彼らを「ざまあ見ろ」という目で見る元小作人の話。大人の世界のいやらしさ、子どもゆえの残酷さなどが、10歳のよし子と引揚者の各務さだこと、「満州おばちゃん」の日々の交流の中から自然と浮き上がってくる。もちろん彼らのまわりはすべて酷いことばかりではなく、血の通った温かな思いやり、少しばかり切ない友情、愛情のやり取りもいきいきと描かれる。

満州のこと、失った家族のこと。何もよし子に語らないまま逝ってしまった「満州おばちゃん」。もし物語がここで終わっていたら「戦争は数多くの悲劇を起こした」話で終わっていたかもしれない。だが、よし子はおばちゃんの死後、真実を知ろうとして子どもなりにあちこち手を尽くし、大人たちからいくつかの事実を引き出すことに成功した。もちろん彼らは満州での出来事をすべて知っているわけではないし、知っていても語らなかった部分はあるかもしれない。でも少なくともよし子は満州おばちゃんが背負っていた苦しみ悲しみの由来を理解し、そのぶん、大好きだったおばちゃんの心に沿うことができた。その過程がいちばんのクライマックスであり、読みどころだ。
彼女が行動に出なければ、大人たちは口を閉ざして何も語らないままだったろう。そして満州おばちゃん=「各務さだ」の人生は闇に葬り去られたままだったろう。よし子の強い思いと行動が、満州おばちゃんをさまざまな読者の中に生き返らせる。

これほど評価していながらなぜ★4つかというと。それは、残念ながら渡邊さんの文体が、相変わらず読み取りにくいところがあるからで、でもそれを指摘しようにも、ご本人は満州おばちゃんと同じ場所にいるので、もう伝わらないのが少しばかり残念。と元同人として思う。

もうじき渡邊さんの祥月命日がやってきます。合掌。

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