角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2012-07-31

この夏公開された長編アニメ。巷で賛否両論渦巻いているようなので、気になってはいたが、わざわざ映画館まで足を運ぶお金と時間の余裕がないので、小説版を読んでみた。監督みずからアニメ作品の原作を書いた形なので(つまりプロの作家ではないので)、多少の突っ込みどころは有るだろうと予想しつつ、それでも物語のエッセンスはつかめるだろうと思ってのこと。
ちなみに文庫版は、角川、スニーカー、つばさ、の三種類。スニーカー文庫を選んだのは、表紙が気に入ったから。成長して親元を離れる間際の子どもたちの顔つきが好き。
(ここから先はネタバレ満載につき、未読・未見の方はご注意下さい)

ストーリーの骨格としてはこんな感じ。
主人公の花(大学生・両親はすでに他界)がおおかみおとこと恋に落ちる→同棲して子を宿す→退学して子育てに専念→二人目の子ども誕生と同時におおかみおとこが事故死→花が一人でおおかみおとこと人間の混血児を育てる→都会では限界があるのでおおかみおとこの故郷に近い山中に引っ越す→こどもたち、成長する→こどもたち、巣立つ。
感動的だったと言われているのは、親子の別れのシーン。あと山の暮らしや自然の描写も評価が高かったのではないだろうか。その一方で主人公・花の生き方ってどうなのよ?と否定的に見る向きもある。

実際読んでみると、話の整合性で大きな穴があちこちに…。
例えば、親子が山中の古い民家に引っ越すくだり。そのままでは住めないので大掃除や修繕が必要なわけだが、それを花は幼い子どもを世話しつつ一人でやってのける。なんと雨漏りの修理までこなす超人ぶり。一ヶ月以上かけてまともに住める状態へもってゆくのはいいが、その状態になってからやっと冷蔵庫の電源を入れたとか清潔になった風呂に入ったとか書かれている。それまで食事は? 風呂は? 野山のものを食し(子どもたちはそれでいいかもしれない)、入浴はせず清拭だけで済ませていたのだろうか。日々の買い物だって車がなくては難しい場所で、いくら自転車が使えるからって、子ども二人乗せて大量の買い出しは無理。なのに、普通に日常生活を送っているような書き方なのだ。
この手の穴は随所に見られる。本で得た知識だけで自然出産をした、あるいは予防接種をや乳幼児検診をまったく受けさせないエピソードにも破たんが見られる。結果、花は普通の女性ではこなせないこともやってのけてしまい、どんなに追い詰められても、身体も壊さなければ精神的にも参らない超人的な母親になってしまった。それは故意ではなく、主婦の日常や生活感を知らないがための過失に思える。
だが、至らないところを突ついても始まらない。この物語のキモがどこかといえば、子どもたちの成長と旅立ちだ。

いろいろ事件があったのち、男の子はオオカミとして山で生きる道を、女の子は人間として人の中で生きる道を選ぶ。選ぶ過程で親の関与はほとんどない。したくてもできないのだ。いくら手塩にかけ、愛情を注ごうと、子どもたちは自力で道を定め、時期が来れば親から離れてゆく。親はそれをただ受け入れるしか無い。その厳しさが、この物語の軸になっていると思われる。また、母親である花は、12年間全力で子育てをして、あとはスッキリ、自分のために生きるわ、というふうにみえる。これは、なかなか親離れ・子離れのできない現代日本の親子関係に対するアンチテーゼなのだろう。
ただ、野生動物と違い、人間の親子関係は、独立したので終了です、なんてきれいに終わるものではない。そのしがらみは一生背負って歩く荷物のようなもの。親は子どもが何歳になろうが安否が気になるものだし、その親も年を取れば子どもが面倒を見る側にまわる。できれば、そこまで視野に入れた終わり方が好ましかったかな、とないものねだりをしてみる。

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