原発テロを扱っているYA小説ということで、もっと早くに読むべきだと思っていた本。

人の心のつぶやきが聞こえてしまうという少女が主人公。
彼女はその特殊な能力を封印しようと試み、その結果、学校生活に適応できるようになってきた。これならなんとか世の中ともうまくやっていけるんじゃないかと思った矢先に、悲しげな少年の心の声が聞こえて来る。少女は彼とコンタクトを取るかどうか迷い、迷っているうちに「きみに会いたい」と願う少年の思考は暴走を始め、ついには原発テロまでたどりつくという話。

もちろん原発は爆発せず、最後には暖かくて大団円なオチがついている。ただ、原発の事故の可能性の高さに薄ら寒さを覚え(それは実際に起きてしまったわけで)、本当に爆発したらどうなるか、というシュミレーション映像が生々しく登場し(幸いにこの映像は実現しなかったが別の形でカタストロフィはある)、安穏に暮らしている私達の日常が実は脆いものだということを、再度確認せざるを得ない。
また、テレパスである彼らの心の傷からは、思考するだけで実行しないなら罪にならないのか(刑法上ではなく道義上で)、という問いもちらちら見える。

少年の正体や、超人的な力を持ってしまった主人公の葛藤という視点で見れば、現代日本を舞台にしたゲド戦記と言えるかもしれない。また、主人公の強い自意識と彼女をとりまく世界の狭さ(主な登場人物は、少年、少女、クラスメート、担任、であり少女の両親すら出てこない)、彼女の言動が世界の命運を左右してしまう(原発事故によって日本の首都が壊滅しかねない)という設定などは、「セカイ系」ライトノベルに近いノリを感じる。この本の出版が1995年であり、同じ1995年にはセカイ系の元祖とされるエヴァンゲリオンがTV放映されていることを思うと、その時代の若者の持つ空気感を見事に捉えている作品だなぁと感じる。
もちろん原発の危うさについては、見事な先取り――、いや、先取りではなく誰も直視しようとしなかったことを明らかにしただけなのだ。

が、物語として一番のポイントは少女の心の成長だ。
持って生まれた特殊能力を封印すれば、社会の中でうまく生きて行ける。でも、それは自分を偽る生き方であり、やっていいことなのか。もしかするとその力には何か意味があるのかもしれないし、ないのかもしれない。力を振るうことは恐ろしくもあり魅力的でもある。そんな葛藤が少女の中で渦巻く。彼女はもともと心優しく賢い子で、何が正しく何が道徳的に許されないかをよく分かっているからこそ、心の奥底に潜む凶暴な気持ちに気づいて悩む。彼女の特殊能力は、そんな葛藤さえも実在化させてしまい、謎の少年を生み出した。その葛藤は良い子が悪い子をねじ伏せればいい(その逆もあり)というものではなく、まず抱きしめてあげればいい、という結論が暖かく人間臭くていい。

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