山田正紀氏のデビュー作。古代文字を解明しようとした若い学者が勝ち目のない「神」との戦いに巻き込まれてゆく話。

氏の作品は「オフェーリアの物語」と「イノセンス  After The Long Goodbye」の2作しか読んだことがないけれど、それらと比べると随分若書きだなあという印象を受けた。主人公とこれを書いた当時の作者に対して「一体なにをそんなに尖ってカッコつけているのか」と小一時間問い詰めたくなるレベル。
キャラの心理的な流れも事件の流れもまだまだ生硬なところがあって、決して読みやすい文章ではないが、でもそれが30年たつと、あの「オフェーリア」の流麗な文章に化けるのだから、その資質はおそるべしである。
文体はさておき、「神は人間の敵であり、人間を使って残酷なゲームを楽しんでいる」という発想がすごい。今でこそよくあるネタになってしまったが、発表された当時はかなりの衝撃を与えたのではないか。もちろん思いつくだけならさほど難しくないだろう。神の存在についてはヨーロッパを中心に、もう何百年と議論されてきたわけだし、「神は死んだ」と叫ぶ哲学者が現れたのはいつのことだったか。

「神」の存在について、オカルトはもちろん、思索的アプローチに頼らず、論理的な方法、つまり石版に刻まれた奇妙な言語を特殊なコンピューターで解析することから結論するという、誰もが納得せざるを得ない手法で明らかにしてゆくプロセスが鳥肌モノ。そして「神の子」イエスの新たな解釈――彼は神の子などではなく、非常にすぐれた霊能力者だったために、神にとって格好の生贄、あるいはゲームの駒になった――も目からウロコ。神が本気で彼を見捨てたのだとしたら、と想像するだけでやはり鳥肌が立つ。

もっとも、神の存在を確かめたものの、その正体をあばく過程は「霊能力者」に頼らなくてはならず、バトルは自ずと超能力戦になるのだが、するとそこだけ描写が省かれるか、あるいはやけにあっさりと戦いの結末がついてしまうことが多く、いつも主人公の目の届かないところであっけなく戦死者が出る。ハードボイルドな文章なのに肝心のいちばんハードな描写が抜けている印象はぬぐえないのが残念。

そして「神狩り2」が刊行されていることから察せられるように、この物語では神との決着はおろか、主人公はまだ神と相まみえておらず「俺達の戦いはこれからだー!」で終わっていることも付け加えておこう。

もうひとつ付け加えておきたいことがある。
この設定は後々のSF作品に影響を与えていることに違いはなく、例えばサイボーグ009の「天使編」や「神々との闘い」はまさに同じネタで、サイボーグたちは人間を超越し、なおかつ人間を弄んでいるらしい存在と戦う話になっているし、昨年公開された神山版009も神は人間に敵対する存在か? という問いがメインテーマになっている。神山版は答えまできちんと用意されているところが素晴らしいのだが、これは先人たちが積み上げてきた成果の上に、最後のピースを乗せたと言ってもいいのかもしれない。

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