4140815329 バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!
マーカス・ウォールセン 矢野 真千子
NHK出版 2012-02-21by G-Tools

これはなかなかに興味深い内容だった。DNAコードがコンピュータのプログラミングになぞらえることができるなんて。

この20年で急激に発達したバイオテクノロジー。しかし、その発展はコンピュータほどスムーズにゆかず、原因は遺伝子に関する情報や研究用の道具が、大学や企業の研究室に囲い込まれているためだ。と、考える在野の研究者が多数現れた。彼らはDIY精神にのっとり、身の回りにある、比較的手に入れやすい材料で安くバイオの研究ができないか、あるいは遺伝子診断のツールを作れないかと奮闘する。そうすることで、生命科学がより多くの人の手で扱えるようになり、例えば途上国でも手軽に遺伝子診断ができたり、多くの知恵が結集して生命科学の進化が加速されるのではないかと考えるからだ。

やがて彼らは集まり情報交換をするようになり、2010年、ロサンゼルスで開かれた「無法者生物学?」という名の会議で「バイオパンク宣言」をする。それは

「すべての人に研究する権利があることを主張し、すべての人に科学のためのツールを届ける、という誓いである」(P67、最後の2行より)

この主張に賛同する人たちはバイオハッカーと呼ばれるが、この場合の「ハッカー」は「ホワイトハッカー」であり、世のため人のためにバイオの技術を行使しようとする人たちである。そしてこの考えたはITの世界で言う「オープンソース」と共通する。オープンソースというのは、例えば無料OSのリナックスのように、プログラムコードをすべて公開して、だれでも手を加えられるようにし、みんなでOSを進化させようという考え方である。少し意地悪な言い方をすれば、無料で使うかわりに知恵を差し出せ、とも言える。

いやはや、DNAをめぐる研究がこんなに熱くなっているとは知らなかったし、それ以上に、彼らの、科学技術に対する考え方に感じ入った。誰もがこの世界の謎を追求する権利があるという考え方。象牙の塔の住人だけに任せておくことはできない。

しかし、DNAのからくりはコンピュータのプログラムに似ていると指摘されれば、なるほどその通りだとうなずく。ITの発達に比べてバイオ方面の進化が遅いのは、DNAのコードを読み書きする手段がまだまだ未発達で時間とお金がかかるためだ。それに、危険性(バイオテロや過失によるウイルス蔓延など)や、当局の監視の目もある。

ただし、危険性については、遺伝子組み換えの技術が未発達すぎて、とてもじやないが凶器として使えるレベルではないらしい。ぶっちゃけた話、バイオテロをするなら既存の病原菌をラボから盗み出して培養するほうが、よほど安く早くできる。

かといって、まったく野放しにしてよいわけでもない。すでに一部の農作物では遺伝子組み換えの品種が利用されていて、一部の企業に大きな利益をもたらしているし、遺伝子組み換え植物が今後どんな影響を環境に及ぼすのかは未知数だ。

それでもバイオハッカーたちは、前進をやめないだろう、というのがこの著者の見解である。そもそもバイオハックをする人たちは少しでもこの世の神秘を解き明かしたくて仕方がなく、それが世の中の役に立つなら万々歳という人たちなのだから。これは科学技術信仰などではなく、人間の本能のひとつなのだろう。

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