マジックアウト〈1〉アニアの方法
佐藤 まどか 丹地 陽子

マジックアウト〈1〉アニアの方法
マジックアウト〈2〉もうひとつの顔 マジックアウト〈3〉レヴォルーション

マジックアウト〈2〉もう一つの顔
マジックアウト〈3〉レヴォリューション
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マジックアウトシリーズ、3冊とも読了。読後感は「イマイチ萌えない美少女」。というのは、設定はとても興味深く、あらすじだけ追うと山あり谷ありで面白そうなのに、語り口がとても地味で、どうしても「大冒険を乗り越えた」というカタルシスに欠けるので。

物語の舞台は、エテルリアという島国。そこでは「才」という名の魔力を操り、高度な文明を築いた人々が暮らしていた。ほとんどすべての国民が何らかの「才」を持って生まれ、その力の強弱で仕事や身分が決まる。主人公のアニアは、強力な「守の才」を持つ家系に生まれながら、何も「才」を持たない「無才人」として生まれついてしまったため、まわりに蔑まれながら育つ。ところがアニアが14歳になったある日、エテルリアは「マジックアウト」と呼ばれる、すべての国民が「才」を使えなくなってしまう災害に見まわれる。エテルリアは気候の管理から防衛に至るまで、何もかも才に頼っていたが、すべてのシステムがストップした。発電システムも才に頼っていたため、国中が停電状態に陥ってしまった。国中がパニックに陥る中、「才」を使わずに発展した外国の知識に通じていたアニアだけが、この窮地を救う方法を知っていた。彼女は行動に出ようとするが、権力者たちが無才人の少女の言うことに簡単に耳を傾けるわけがなく……。

という話。もちろん最後はアニアの提案が受け入れられて、エテルリアはピンチを脱することができる。2巻は、バリアが破れて外国に発見されてしまったエテルリアが、鎖国を解いて外の世界と接触する話で、アニアは海を隔てた西端国(オヴェーリア)へ留学する。3巻ではマジックアウトを終わらせる方法がわかったものの、エテルリア国内で内戦が起きてしまい、国の制度を改革しないことには、「才」が復活しても国はまとまらない、という崖っぷちの状況を打開する話。

この物語はさまざまな問題提起をしている。一つの技術に頼りすぎることの危険、鎖国の弊害、生まれつきの能力によって職業と地位が定められる階級社会の安定感と理不尽さ。それらはつきつめると、思考停止への警鐘ではないかと思われる。「才」によって繁栄を謳歌しているうちに、また、「才」の力を自国に囲い込んでいるうちに、いつしかエテルリア社会のシステムは硬直し、人々は自分の運命を与えらたまま、大した疑問も持たずに受け入れるようになってしまった。アニアは「無才人」として生まれたからこそ、「才」にふりまわされることなく外からエテルリア社会を見ることができたし、自由にものを考えることができた。実際、彼女は作中でも粘り強く考え、慎重に行動するし、彼女のよきパートナーとなるピュリスも同じく、深く冷静にものごとを考えられる性分だ。そのせいだと思うのだが、物語の大部分は話し合い、議論、駆け引きなど占められる。特に3巻などは、内容のほとんどが政治的駆け引きと裁判の話だ。それで地味な印象が強いのだろう。

地味な印象を与える原因はもうひとつある。作中で暴動や市街戦のシーンが何度も出てくるし、戦闘能力を持つキャラクターが何人か登場するにもかかわらず、バトルの描写がいっさいない。戦いを彷彿とさせる描写はもちろんあって、それは泥にまみれて血を流す負傷者の姿だったり、アニアが暴徒に襲われた際に、飼い犬が彼女を守って血を流して死んでゆくシーンだったり、けっこう生々しいところはある。が、アニア側の人物が力をふるって悪漢を傷つける描写はない。もっと言うと、アニアの双子の妹を殺害し、内戦を企てた元議員が逮捕された時でさえ、彼は闇の力で闇に葬られるのではなく、正式な裁判にかけられ、相応の刑(「才」を奪われた状態での無期懲役刑)を与えられている。

どんなものごとも、力では解決しない、最終的に一番強いのは知恵と言葉の力なのだと、そういうメッセージを体現したかのような本作。でもちょっとばかり、言葉の力に頼り過ぎたかなとも思う。あるいは主要な登場人物がみんな頭が良くて冷静なので、ひどいことになる前に必ず手が打たれていて、この先どうなるかとワクワクした末に肩透かしを食らってしまうことが何度もあった。派手な立回りがあればいい、というわけでもないが、2巻の後半、アニアたちが船で密航してエテルリアに帰還するときのエピソードがスリルにあふれていて非常に面白く、あのノリが全編にわたって施されていればこれはとんでもない名作になるのになあと思うし、バトルがないのは許せるとしても、主人公の側に立つ人物はだれもが公明正大で、そこがちょっとつまらなくて残念。

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