B00C42IPAO 天の磐笛(第四巻) 横山 充男 藍象舎 2013-03-29by G-Tools

(※第一巻の感想はこちら→

なんというか、怪作です。基本は神道ベースの呪術バトルであり、不可知のパワーを持つと言われる「天の磐笛」を主人公がどうにかして奏でるまでの物語なんですが、だんだん理屈と理屈のぶつけあいになってくる。一応、作者が児童文学の作家なので「児童文学」のカテゴリに放り込んだけれども、良くてYA、もしかすると一般書でもいいのかもしれない。そもそもKindleでしか読めないというあたり、高校生以上の読者を想定しているわけだし。

日本の神話を紐解くと、アマテラスを始めとする天津神と、オオクニヌシに代表される国津神という二系統の神が出てくるのだが、この物語もまた二系統の神々の対立が軸になっているのかのように見えた。神社の起源を調べることによって、その神社が天津神を祀っているのか国津神を祀っているのかがわかり、また神社同士の力関係もわかってしまうとか、天津神が国津神を利用して土地を支配する構造を明かしたりするなんていうエピソードがゴロゴロ出てくるからだ。だから、最初のうちは、天津神が奪い取って隠していた「天の磐笛」を国津神の血筋を持つものが取り返して奏で、そのことによって世の中が大きく変わる、みたいな筋書きを予想していた。ところがそれはフェイント。3巻目に入ると「音霊(おとだま)族」と「言霊(ことだま)族」の対立がクローズアップされてくる。

「言霊」というのは文字通り言葉に霊力が宿る事象のことで、これは「言霊信仰」ということばにも表れているように、よく知られた話だ。いっぽう「音霊」もまた、音そのものに霊力が宿る、あるいは霊力を宿した音である。例えば現代でも岩笛を奏でる人たちがいるが、彼らは「石笛の音は神を呼ぶので、いたずらに鳴らしてはいけない」という。石笛の音には音霊が宿っているというわけである。

ここから先が興味深いのだが、その昔日本人が使っていた言語は、音霊を宿す言語であり、発音される言葉は限りなく歌に近かったという。人々は、一つ一つの音をゆっくりと歌うように発音した。その抑揚に意味と感情と霊力が宿る。そこへ侵略者として現われたのが言霊言語を操る人々で、言葉から「意味」のみを抽出し早口で弾丸のように言葉を紡ぎだす。彼らは世界のあらゆるものに勝手に名前をつけ、名付けることで世界に彼らなりの秩序を与え支配してゆき、音霊言語もそれを操る民も絶えて今の世に至るという。しかし、意味や理屈で世界を支配する言霊ワールドも限界に近づきつつあり(その証拠が世界各地で勃発する戦争だったり福島原発事故だつたり、というのだが、原発事故とくっつくけるのは少々強引に感じらた)、次の言語体系が必要とされているのだが、次の世界への扉を開くのが音霊言語の民が遺した天の磐笛であるらしい。そして主人公は音霊言語の記憶を持ち、もともと磐笛を奏でる血筋のものとして生まれたという設定。

ここまでくるともう、山田正紀でも読んでいるような気分です。まるでSFです。現実世界をがっちり足がかりとしながら、とんでもない所へ連れてゆかれる。大変面白いですが。

主人公の石上琅(いしがみろう)は高校生だけども、この物語にふさわしく、かなーりクールな性格を持っている。まず幼いころに自動車事故で両親を失っている(ご想像通り、「事故」は事故ではありません)。 唯一の身寄りである叔父はあやしげな呪術師で、いきなり現れて毒舌を吐きながら琅に呪術バトルの手伝いをさせたり、しばらく姿を見せないと思ったらこっそり琅の行動を監視していたり。実質的に琅を世話をし面倒を見たのは、叔父の属する組織から派遣されてくる家政婦と家庭教師だつたというから、その殺伐とした生活が想像できるのではなかろうか。しかし琅はグレることも世を拗ねることもなく、すくすく育つ。心のなかに大きな空洞を抱えながら。そしてその空洞の意味を知るために、自分のルーツを探索し天の磐笛にかかわってゆくことになる。

横山作品といえば「同級生」や「水の精霊」に登場するような、宿命の糸で結ばれた一組の男女を思い出すけれど、石上琅にも運命の女性はいる。同い年で、母の郷里の神社に生まれた中峰りんである。琅が自分のルーツを求めて母の郷里を訪ねた時に出会う。りんもまた磐笛を奏でる。強い霊感を持ち巫女としての素質に恵まれたりんは、琅とは魂の片割れ同士だとまで言うのである。琅も確かにそれは感じ取っているらしい。なら二人は一緒になるのかといえば、本作の場合、そうはならない。りんは自分の仕事は本巫女となって神と交信することだと悟り、修行の道を選ぶ。つまりこの世に存在するどんな男性とも交わらないということだ。琅は琅で、通っていた高校に思いを寄せる女の子がいて、磐笛の件が落ち着いたら本気で彼女にアタックを掛けるつもりでいる。魂で結ばれた相手がいながら、現実の生活ではあえて別々に暮らすという選択であり、それはそれでまた面白いし、よりリアルな展開ではある。

正直なところ、この後の物語にいっそう興味がある。琅はまだ「(真理の)扉」を少し開けてみただけだ。話の流れだと今後、彼は四国や鈴鹿山中を訪ね、おそらく真人(「水の精霊の主人公」)や健(「幻狼神異記」の主人公)と出会うことになるのだろう。そうなれば新しい物語が増えるし、会わなかつたとしても何かしら霊的体験をしてりんとともに磐笛を吹くことになるはずだ。その時何が起きるのか。まわりの人間にどんな影響が出るのか。果たして世界は変化を始めるのか。せっかくだからそこまで見定めることができれば、と思う。

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