物騒なタイトルですが、中身は大まじめにエンタメしてます。

404874030X C&Y 地球最強姉妹キャンディ 夏休みは戦争へ行こう! (カドカワ銀のさじシリーズ)
山本 弘 橋本 晋
角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-02-11by G-Tools

 

11歳の子どもとしては地球最強の肉体を持つ夕姫と、地球最強の知能を持つ11歳の知絵。この二人は親の再婚で姉妹となったある意味運命的な(そして最恐の)組み合わせ。再婚した両親が新婚旅行に出かけている間、ひょんなことから、何百年もの間戦争を続けているタガール国とバンダ国に関わることになってしまった。タガール国とバンダ国は宗教・文化の違いから何百年も戦争を行っているという設定で、今も内戦が続く国々をものすごく抽象化し、子どもにもわかりやすい形で作り上げた架空の国。

この二国の設定を見るだけで作者の本気度が測れるが、その戦争の現場に、地球最強とはいえ、小学生を二人放り込んでしまう。しかも戦争に関する描写に手抜きはない。ただしR指定になってはいけないので、兵隊ではなくロボットに戦わせていること(それでも人は大量に死んでしまう)、子どもたちの武器が普通の銃ではなく、水分を固形化することによって人間を固まらせる(&電気ショックで復活可能)P光線を発する銃になっているということ。この二点をのぞけば、戦争がもたらす悲劇、人間の愚かさ弱さが誤魔化しなくきっちり描かれている。知絵と夕姫も何度も命の危機にさらされながら逃げ延びる。特に夕姫が地雷を踏んでしまったとき(足を離せば爆発してしまう)の描写は圧巻。

だからといって「戦争は悲惨だね、絶対にいけないね」では終わらない。二人はそれこそ知恵(世界一のハッキング能力とプログラム作成能力)と勇気(ありえないほどの身体能力)で二国間の戦争を止めるばかりか、裏で戦争をコントロールしていた死の商人まで葬り去ってしまう(死の商人の存在もコミカルながら妙にリアル感がある)。非常に痛快なストーリーだ。さりげなくノーチラス号やナディアやヤマトがネタとして使われているのも楽しい。ヤマトのあの名セリフ、「我々がしなければならなかったのは戦うことじゃない、愛し合うことだった」に関してはあれ以上完璧なオマージュはないんじゃないか?というレベルだ。

そうさ、アニメなんてうそっぱちだ。現実じゃない。不自然だ。その番組を作った人たちだって、きっと本気でそんなことは信じていなかったはずだ――敵の国を滅ぼした人間が、それをくやんで泣くなんてことを。だけど……少なくとも、かれらはわたしたちよりも正しいんだ。不自然であっても、実在しなくても、かれらの言っていることのほうが正しいんだ。現実のほうがまちがっているんだ。
(本文246ページ、タガール国王子の台詞より。「アニメ」とは具体的には宇宙戦艦ヤマトを指す)

戦争をやめさせたからといって、正義の味方ヅラなどけっしてしない知絵はちゃんとわかっているなあと、しきりに感心。(「読書感想文は大人を喜ばせるために書くの」という名台詞を放つ少女だし)。知絵はその気になれば地球を滅ぼすことのできる知能の持ち主なので、万が一人としてのあり方を間違えると大変なことになる。このことは知絵本人もよくわかっているらしく、大人と同等かそれ以上の価値観、倫理観を身につけている。正直なところ、彼女のスペックは高すぎてズルいが、そのおかげで荒唐無稽な立回り劇が成り立っている。そして読み手は今現在、世界各地でリアルに起きている戦争について思いを馳せることができるのだ。その昔自分たちの国が大きな被害を受けた「戦争」ではなく、今平和な生活を送っている自分たちが、他所の国の「戦争」をどう受け止めたらいいのか、という視点で。この視点は大事だと思う。

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