直虎二種

巷では大河ドラマの真田丸ロスに浸る人々が多いようだが、来シーズンの「おんな城主 直虎」はもう始動している。児童向け文庫でも2作品が出たので、さっそく読み比べてみた。左の書影が、越水利江子著「戦国の姫城主 井伊直虎」、右の書影が、那須田淳著「戦国時代をかけぬけた美少女城主 井伊直虎」

 

歴史上の人物を描く場合、それが女性だと資料が大変少ないそうで、つい先日も「直虎は井伊家の一人娘ではなく、遠縁の男性だった可能性がある」という資料が見つかったという話が出たばかりだが、その資料の真偽も検証されなくてはいけないそうだ(戦国時代、言い方は悪いが敵を欺くためにニセの手紙や文書があってもおかしくないので)。当時(そしてほんの数十年前まで)女性は所有物、あるいは財産としての価値しか公には認められてなかったわけで、記録が少ないというのはそういうことなのだろう。ペットの名前や寿命がいちいち公文書に残されないのと同じかもしれない。

ということは、逆に「こういう出会いやストーリーがあってもおかしくない」と現代の人間が想像を膨らませる余地が十二分にあるということで、今回は奇しくも二人の児童書作家がそれぞれ違う味付けで直虎の生涯を語ることになった。ちなみに、直虎の生涯については、井伊家の菩提寺である龍潭寺のサイトで紹介されているので参考までに→  続きを読む

「この世界の片隅に」(原作について思うこと)

2016年12月現在、快調に観客動員数を伸ばしている映画「この世界の片隅に」の原作について感じたことを語ってみようと思う。

昭和19年~20年にかけて、広島から呉市へ嫁いできた北条すずの日常と成長を描く物語。戦争のさなか、食料や物資がひっ迫していく中で、なんとか日常の暮らしを保ち、人らしく生きていこうとするすずの奮闘ぶりが描かれる。時とともに確実に生活に影を落としてくる戦争、軍港としてにぎわった呉、戦争が始まる前の活気にあふれた広島の街の様子などが丁寧に描かれている。空襲や原爆も同じように丁寧で噓のない筆致で、時には容赦なく描かれている。

人気作だけあって、いま、ネットでこの作品の感想や評を探すと、優れたものがすぐに見つかる。作品の構造や時代に与える意義などに関してはそちらを参照してもらうとして、ここにはごく個人的な感想を置いておく。

読了直後は、内容のあまりの濃さにただ呆然とするばかりだった。理由は主に3つあると思う。ひとつは、作者独特の表現方法のおかげで、言葉にできない感情が、言葉によらないまま描かれていること。だから読みながら感じていった感情を言語化するのに労力がいる。もうひとつは、受け止めきれなかったり、取りこぼしてしまった表現がたくさんあること。そして、最後は物語が発するメッセージの深さと重さ。人の半生をまるっと体験して、その重みをたちまち言葉で表現できたとしたら、それは言葉が薄いか体験が薄いかのどちらかだ。優れた作品は多面的な読み方を読者に許すし、逆に読者にとっては、己を映す鏡になり得る。この作品の中に何を見るかは、読み手の背負っているものを残酷なぐらい反映するものと思う。ちなみに自分がこの作品に見出したのは、喪失と希望だった。

注意:ここから、遠慮無用のネタバレが始まります。避けたい方は回れ右をおすすめします。 続きを読む

第7回名古屋SF読書会

秋晴れの勤労感謝の日、第7回名古屋SF読書会が開催された。本好きクラスタの皆様にとっては、勤労=読書と解釈してよいのではないかと思う。

今回の課題本は、スタニスワフ・レム『ソラリス』(沼野充義 訳)。満を持しての登場となった。
内容をざっくり紹介すると、惑星ソラリスの上空に浮かぶステーションに、ある学者が派遣される。彼は心理学を専門とするソラリス学者で、巨大な「海」状の生命体、ソラリスの秘密に触れることになる。ソラリスから人間への働きかけ(?)が、ステーションに滞在する研究者の個人的なトラウマを具現化するというかなりヒドイ方法で、人間の存在というものが揺さぶられるわけで……。

なお、旧訳版にあたる『ソラリスの陽のもとに』(飯田規和 訳)もあるが、こちらはロシア語に翻訳されたバージョンを底本にしており、ロシア語版は検閲を意識して削除された部分がある。今回取り上げる新訳版は、ポーランド語の原作からダイレクトに訳されたもので、削除部分も補完済み。

旧訳版はこちら

参加者は25名、3テーブルに分かれての語り合い→各テーブルの意見をシェアといういつもの流れ。 続きを読む

2016年11月の読書

今月はがんばりました!
読書会のおかげでもありますが、いろいろ読んで思うのは、やはり読書は世界への窓口だということですね。時間も空間も乗り越えて唯一無二の経験をさせてくれます。それはまるで装置のいらないVR(違うかも)

O-bakeの本棚 – 2016年11月 (9作品)
羊と鋼の森
羊と鋼の森
宮下奈都
読了日:11月16日
評価3


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2016年9月&10月の読書

今さらなのですが、9月の読書記録をアップするのを忘れてまして(汗)
行事が立て込んで忙しい中でしたが、興味深い本が読めました。サウンドスケープの本は特によかったですね。森や草原など、文明が立ち入る前の自然の世界が、どれほど豊かな音に満ちていたかをを教えてくれます。現存するオーケストラの音は、森のサウンドスケープを模倣したものに違いないと思えてきます。
O-bakeの本棚 – 2016年09月 (4作品)
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ちなみに、10月の読書記録がないのは、読んだ本がないからです……_| ̄|○
ひと月の間に一冊も本を読まなかったなんて、読書記録をつけ始めて以来初のことでは……。
言い訳をするようですが、資料本は読んだ……というか目を通しているので、活字に触れていないというわけではないのですよ。