2020年の読書(コミックver)

もう10年以上前から、ブクログで読んだ本の記録をしているが、昨年は年間登録数が初めて100冊を超えた。ガツガツ読書に勤しんだかといえば、そんな余裕もなく、ただ現実逃避をかねてコミックを読みまくったせいだ。ただしマイルールを定めて、基本的には毎週2冊ずつ読み進め、コンプリートするのは「これは!」と気に入った作品のみにして、できるだけ知らない作品に幅広く手を付けることにした。

その結果、一年間に少しでも目を通した作品数は19作品。うち、コンプリートしたものが3作品。1冊のみの読み切りが1作品。リアルタイムで追い続けている作品が5作品。残りは途中で満足して、あるいは面白味を感じられずに切り上げた作品。まずは以下に作品名をあげておく(ほぼ時系列)。

寄生獣/岩上明
鬼滅の刃/吾峠呼世晴
本好きの下剋上/原作:香月美夜 作画:鈴華
空挺ドラゴンズ/桑原太矩
薬屋のひとりごと/原:日向夏 作画:ねこクラゲ
とある魔術の禁書目録/原作: 鎌池和馬 作画:近木野中哉
アンサングシンデレラ/荒井ママレ
とある科学の超電磁砲/原作: 鎌池和馬 作画:冬川基
とんがり帽子のアトリエ/白浜鴎
人形の国/弐瓶勉
ヨルムンガンド/高橋慶太郎
不滅のあなたへ/大今良時
レイン 雨の日に生まれた戦士/原作:吉野匠 作画:住川惠
文豪ストレイドッグス/原作:朝霧 カフカ  作画: 春河35
死役所/あずみきし
蛍/1984年/原作:村上春樹(蛍) ジョージ・オーウェル(1984年) 作画:森泉岳土
ブルーピリオド/山口つばさ
宝石の国/市川春子
はたらく細胞/清水茜

こうして列挙してみると、ジャンルや書かれた年代は実にバラバラなので、ある程度まとまりをつくった上でコメントをつけていきたい。

  • 以前から読んでいて新刊を追っているシリーズ
    • とんがり帽子のアトリエ/白浜鴎
      魔法使いに拾われた少女が魔法使い見習いとなって成長してゆく物語。その過程で魔法使い同士の確執や世界の秘密が少しずつ解き明かされてゆく。魔法のからくりとかルール設定がきっちりできている上、キャラクターや人間関係のあやが丁寧に描かれているし、エピソードの積み重ね方、ピンチの作り方がもう玄人でファンタジーのお手本みたいな作品。安心して物語世界に浸れる。
    • 文豪ストレイドッグス/原作:朝霧 カフカ  作画: 春河35
      文豪の名前を持つ登場人物が、それぞれの代表作品名を冠した「異能」を使ってバトルを繰り広げる(例えば、太宰治→異能名「人間失格」)。チームプレイの見事さ、謎の組み立て方の巧妙さ、爽快な頭脳戦など、好みのど真ん中を持っていかれた作品。
    • 宝石の国/市川春子
      人類が滅亡して長い長い時が経った、遠い未来の地球と月が舞台。命を宿し人の形をとった宝石たちと彼らを狙う月人たちの戦いの物語だった……のが、主人公フォスの変遷にともなってどんどん話の軸がズレていく。美しくて痛くて壮絶な物語になっていくさまをずっと追い続けている。
    • 人形の国/弐瓶勉
      極寒の惑星の上で繰り広げられる二瓶ワールド。ざっくり言うと復讐譚であり、悪の王を倒しに行くわかりやすい話なのだが、独自の世界設定とギミックのおかげで面白く読めている。あちこちに『BLAME!』の影がみえる。
  • 最初の数巻でお腹いっぱいになった作品
    • 空挺ドラゴンズ/桑原太矩
      ドラゴンを狩って食材としてさばく空挺乗りたちの物語。捕鯨船をモデルにしていることがまるわかりだし、絵柄が露骨に宮崎駿風(ナウシカの漫画版のイメージ)。群像劇として作られているけれど、世界の屋台骨や物語の方向性が見えなくて残念。
    • 不滅のあなたへ/大今良時
      謎の生命体が命の器(生物の身体)を乗り換えながら、何らかの目的を持って成長し世界を記録してゆく話。主人公にあたる存在が次々と見た目を変えていくのも珍しいし、SFとFTが入り混じった不思議な設定。
    • 死役所/あずみきし
      死後の世界を舞台にした話は実はたくさんあるけど、これは、生前の行いを聴取して判定するいわゆる閻魔様的役割を「死役所」が担当している形。職員と「あの世」にやってきた人々のやりとりが毎回ドラマになっている。職員は全員名字に「シ」が入るというね…。真面目な設定としては、自殺者(の一部?)が死役所職員になるらしい。
    • ブルーピリオド/山口つばさ
      美術にまったく興味のなかった男子高校生が、ふとしたきっかけで絵描きにハマって美大入学(しかも東京芸大)を目指すスポ根的コミック。音楽の世界だったら共感しまくりだが(「のだめカンタービレ」みたいに)、絵の世界だと、いかにも大変そうだなーとちょっと傍観者的立場に立ってしまう。
    • アンサングシンデレラ/荒井ママレ
      医療ものだけども薬剤師にスポットライトを当てているのが新鮮。主人公は病院内で仕事をする新米薬剤師。ガッツがあって好感の持てる女の子が薬剤師の現場の問題と真っ向から向き合う。読み応えはあるど、ややありがちな設定かな。
  • ちょっと前の作品で完結していて、かなり気に入った作品
    • 寄生獣/岩上明
      あるとき、どこからともなく降って湧いた謎の寄生生命体。彼らの使命は人体に寄生し人を喰うことだという。高校生の新一もあやうく寄生生命体に脳ごと乗っ取られそうになったが、すんでのところで阻止し、そこから寄生体「ミギー」との数奇な共同生活が始まる。ミギーを宿したことで、寄生獣とのバトルに否応なく巻き込まれてゆくと同時に、人として逞しく成長してゆく。それだけでなく、寄生獣が生まれた意味、寄生獣自身個体差があり進化もしているという設定、また、同じ地球上の生命体として彼らとの共生は可能なのかという重いテーマも組み込まれており、非常に読み応えがある。90年代の名作ですな。
    • ヨルムンガンド/高橋慶太郎
      世界平和を目指す武器商人のココと武器を憎む元少年兵ヨナの物語。いくつかの戦闘や駆け引き、修羅場を経て、ココは圧倒的なある力を手に入れ、それを使って本当に世界「平和」を実現しかけるけれど、それは誰が見ても狂気と紙一重の発想であるところがすごい。狂気に至らないための最後の砦がヨナであるところも。「人間なんてクソ」を標榜するココを主人公に据えて最後までブレなく書ききった作者も凄いと思う。
  • ラノベ(あるいは「なろう」系)原作で面白かったコミック
    • とある科学の超電磁砲/原作: 鎌池和馬 作画:冬川基
    • とある魔術の禁書目録/原作: 鎌池和馬 作画:近木野中哉
      上記の二作はコインの表と裏。あえて言えば、「とある魔術~」が本筋で「とある科学~」がスピンオフかな。ラノベとしては古参の部類に入るが、端的に言って面白い。超能力開発がテーマで登場人物たちは何らかの能力持ちだし、能力の強さによってヒエラルキーができているのだが、主人公の能力はなんと「右手で触れると相手の能力を無効化できる」という、まるで文ストの太宰さんの「人間失格」みたいな能力(もちろん、文ストのほうが後発の作品)。攻撃には向かないし測定不能なため「無能者」認定されているけれど、実は、これ、頭のいい人が使うと戦闘ではかなりお役立ちな能力で、だからこそバトルが毎回楽しい。主人公上条当麻とヒロイン(?)御坂美琴 の絡みも楽しい。
    • レイン 雨の日に生まれた戦士/原作:吉野匠 作画:住川惠
      ひと言で説明するなら、とにかく強い戦士レインと、彼を慕うお姫様の物語。敵は隣国の王である強力冷酷な魔法使い。超わかりやすい構造。テキトーな奴に見えて実はめっぽう強い反面、暗い過去とコンプレックスを抱えているというレインのキャラ造形は、20年くらい前に流行ったタイプで、時代を感じさせるところも味わい深い。
    • 薬屋のひとりごと/原:日向夏 作画:ねこクラゲ
      舞台は中世くらいの中国がモデルと思われる。花街の薬師の娘、マオマオが人さらいにさらわれ後宮へ売られたところから話が始まる。毒見役に抜擢された彼女は薬草の知識を生かして後宮の難問を解いてゆく。花街育ちゆえのしたたかさと頭の回転の良さがあいまって、たいへん魅力的な主人公。面白いのはヒットした原作に対して、別々の2社がコミック化してしており、コミックは2バージョン存在する。どちらも良くできているが、自分はビッグガンガンコミックス版のほうが好み。
  • コレは推さずにいられない!
    • はたらく細胞/清水茜
      細胞の擬人化。といえばそれまでだけども、よくぞここまでその役割と性質をうまく人に例えたものだと軽く感動さえした。そこに物語性まで取り入れて、体外から侵入した病原体との戦い、あるいは体内の細胞が暴走したガン細胞との戦いなど、すごく楽しめる。しかもこれが架空の話ではなく実際に自分の体の中で起きているドラマなのだから、やっぱりすごい(語彙)。
    • 鬼滅の刃/吾峠呼世晴
      これは言わずとしれた、コロナ禍の日本に救いの手を差し伸べた作品だ。コミックの売上はすさまじく、ふだん本屋に来ない層を呼び寄せ、映画版は興行収入堂々の第一位(「千と千尋」を抜いた!)。人を食らう鬼を退治する「鬼殺隊」の物語なんだけど、キャラクター設定、絵柄、物語の構成、各エピソードの深さ、どれをとっても一級品。解説や分析もネット上にたくさん出ている。ヒット作のお手本みたいな作品だけども、個人的に一番評価できるのは潔く23巻できっちり終わらせていること。ヒット作というのは往々にして延命措置を図られ、終わり時を逃してしまうことがあるからねぇ。細かく突っ込めば作品に関して言いたいことはいくつかあるけれど、それは場を改めて書くかも。
    • 本好きの下剋上/原作:香月美夜 作画:鈴華
      本好きの女子大生が本に押しつぶされて命を落とし、異世界に転生する話。転生してみれば虚弱な5歳の女の子で、しかも本が超高級品の世界にいた、という設定。しかし、彼女はあきらめずに本が普及品として存在する世の中を作るために悪戦苦闘する。生まれ変わる前の記憶がそっくり残っているため、見た目は幼女でも頭の中はほぼ大人というチート技が使える。知恵と怖いもの知らずの心意気と恵まれた人間関係に支えられ、虚弱体質の少女が「本のある世界」を目指してどんどん出世してゆく。異世界の設定がしっかり作り込まれていること、キャラクターも同様にきちんと造形ができていること、さらに主人公のマインちゃんがとても魅力的な子なので、今年読んだコミックの中でイチオシ。
  • 規格外(え?)
    • 蛍/1984年/原作:村上春樹(蛍) ジョージ・オーウェル(1984年) 作画:森泉岳土
      世界の名作を独特の画風でコミック化。原作の核心がつかめるし、画としてみても美しい。とくに「蛍」は良かったな。小説は行間で語ることがあるけれど、画は空白の部分で語ることができる。

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