「正義の呼び声」はいつまで続くのか

先月のこと、某動画配信サービスで、サイボーグ009の最新作『CYBORG009 CALL OF JUSTICE』を見てみた。総監督として神山健治氏の名前があったので、それなりに期待はしていたけれど、うーん、一言で言うなら、プロの人たちが手がけた壮大な二次創作だな、と思ってしまった。

※ここから先は辛口&ネタバレコーナーですので、気にならない人はどうぞお進みください。 続きを読む

2017年2月の読書

今年の二月は精神的にかなりきつくて、本を読むどころではないと思っていたのですが、実はそういう時こそ本は精神安定剤だと実感しました。

O-bakeの本棚 – 2017年02月 (2作品)
光の帝国―常野物語 (集英社文庫)

『セカイヲカエル』は実はタイムトラベルSFですが、移動先が二十年前という微妙に現代と地続きな時代。小学生の主人公たちにとっては、十分未知の世界ですが、大人にとっては、懐かしい子供のころの風景だったり青春時代のほろ苦い風景だったり。
話のテーマとしては、親友と図らずも音信不通になってしまった主人公が、どうやってお互いへの信頼を保ちつつ離ればなれになった時間を生き延びるか、という友情ものであり、また主人公の母とその母の間に存在した葛藤を解決するなど、大人も視野に入ってきています。
よくにた題材を扱った児童書としてこれを思い出しました。

タイムチケット (福音館創作童話シリーズ)

タイムチケット (福音館創作童話シリーズ)
不思議なチケットの力で三十七年前、つまり自分の父親が小学生だったころへ飛ぶ話。
人間関係を時間軸という縦の広がりで捉えることができる秀作です。

『光の帝国』は今が旬の恩田陸作品で、その中でもひとつのシリーズとなっている「常野物語」の最初の本です。異能集団である常野一族が経験するさまざまな出来事――日常のちょっとした事件から、戦時中の悲劇までが、短編連作という形で色鮮やかにつづられてゆきます。どの話も完成度が高く、一粒で何度美味しいのかわからなくなるほどです。また、最終話は二人の若い音楽家が主人公となる話ですが、音楽の描写が半端なく濃くて深く、なるほど『蜜蜂と遠雷』の作者だなあと納得したのでした。

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次はコミック2作品。どちらも素晴らしいの一言につきます。優れたフィクションは現実の上塗りすら可能なのですよ。

O-bakeの本棚 – 2017年02月 (2作品)
とんがり帽子のアトリエ(1) (モーニングコミックス)

物語としては超正統派で安定感のある面白さ、しかも魔法のルールがきっちり設定されている。設定フェチにはたまらんです。

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「アリーテ姫」の変容

先日、片渕須直監督の初期作『アリーテ姫』を見てみた。正直なところエンタメとして成功しているとは言い難いのだが、表現の方向性や各所に散りばめられたモチーフの意味を考えるにつれ、空恐ろしくなってきたので、その理由について考えてみようと思う。

まずは原作となる『アリーテ姫の冒険』についてざっと紹介。


悪い魔法使いのもとへ無理やり嫁がされたうえ、お城の地下室に閉じ込められたお姫様が、三つの冒険に出て最後には魔法使いを自滅させるお話。お姫様が冒険する童話があってもいいじゃない? という発想で作られた女の子のための「童話」。したがって、フェミ色はかなり強い。
たとえばアリーテ姫の造形。白馬の王子様を待つなんて夢にも思わず、聡明で手仕事の大好きな娘として描かれている。しかし、父王は娘の賢さを非常に嫌悪する。というのも、賢くては嫁の貰い手がないからだ。事実、アリーテ姫は求婚に来た王子たちのプライドをズタズタにしてしまい、まともな王子は来なくなった。
悪い魔法使いによって地下室に閉じ込められた姫は、泣き暮らすどころかまったくへこたれる様子はない。汚い地下室を居心地のよい空間にし、手仕事でさまざまな物を作り出して周囲の者に分け与えては友を増やし、悪い魔法使いが厄介払いのために課した三つの難題は、武力や魔力ではなく知恵と愛情をもって難なくクリアしてしまう。結果、悪い魔法使いは自滅し、姫さまは魔法使いの城のあるじとなり、さらに国民の支持を得て王の座を継ぎ、めでたしめでたし。
男性を権力と破壊の象徴、女性を創造力の象徴として、わかりやすくも、ややステレオタイプ的に描いている。

これを片淵監督が料理するとどうなるか。他愛のない「童話」が毒入り紅茶になるような、不穏な空気を含んだ物語になってしまう。
(以下、ネタバレしかありません。避けたい方はどうかお戻りください)

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2017年1月の読書

1月は勉強のためもあって、いろいろ手を出しました。まずは児童書から。「アリーテ姫の冒険」はアニメ版を見るにあたっての予習として読みました。姫さまの活躍ぶりが型破りではありますが、露骨にフェミニズム色の強い童話です。感想は別記事を立てて書く予定です。
その他作品は、面白い児童向け作品を書くための参考書として読みました。どれも大変刺激的でした。画像をクリックすることでブクログのコメント欄にとびます。
O-bakeの本棚 – 2017年01月 (5作品)
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次は、コミック。「日の鳥」は、こうのさんが実際に見聞きした3.11以降の東北の様子が、なんと妻を探す雄鶏の目を通して描かれています。小さな変化、大きな変化、変わらないもの、永久に失われてしまったもの。雄鶏はある時はコミカルに、またある時にはシニカルに眺め語ります。

「ヴィンランド・サガ」は期間限定無料版につられて、最初の2巻をついポチッとやってしまいました。コロンブスより先にアメリカ大陸にたどりついた北欧人(ヴァイキング?)がいるという伝説に基づいた英雄譚です。こういう話は好物ですが、なにぶん全巻つきあう余裕がなくて残念。

年初いちばんの掘り出し物が「3月のライオン」です。巷でこれだけ人気があってアニメ化&実写版が作られるというのだから原作の良さは保証済みですが、実際に読んでみたらホントにひっくり返るほどすごかったですね。特に何らかの専門的分野で生き抜こうと決めた人間には刺さる刺さる。なのに痛気持ちいいのが恐ろしいです。

O-bakeの本棚 – 2017年01月 (6作品)
日の鳥 1
日の鳥 1
こうの史代
読了日:01月04日

 

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2016年12月の読書

12月も忙しかったですねー(毎度のことなので、ついに棒読み)

「言葉が鍛えられる場所」というのは、主に詩歌についての評論ですが、タイトル通り言葉を使って何かを表現することの難しさ、恐ろしさ、不可能性について思いを巡らすよい機会になりました。
「星うさぎ」は美しいけれども本当に不思議な物語で、でも一番最後のページに書かれた献辞を目にした瞬間、すべての謎が解けたように思いました。人は肉体を失った後でも人生の痕跡をあちこちに残してゆくものなのです。

O-bakeの本棚 – 2016年12月 (2作品)
言葉が鍛えられる場所

 

星兎
星兎
寮美千子
読了日:12月26日

 

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本はわずか2冊ですが、実はコミックはたくさん読んでいまして、ドラマ化で話題になった「逃げ恥」ですとか

「1巻目無料」につられてつい最新刊まで読み進めてしまった「遅効性SF」こと「ワールドトリガー」ですとか

ワートリはいちおう異世界SFではありますが、バトルものとしての設定が素晴らしく良くできていて、ゲームにしたらさぞ面白いだろうなあと思いました。
逃げ恥は、結婚というテーマに現代的な切り込みを入れていて「へぇ」と唸りましたね。ジェンダー問題は、この時代になってようやく地に足が着きはじめたところです。

あと忘れていけないのが、こちら。

「この世界の片隅に」ですっかり有名になった、こうの史代氏を扱ったユリイカ11月号です。内容は非常に盛りだくさんで、映画監督との対談から、作品解説からエッセイから、実験的手法の解読など、さまざまな角度でこうのワールドを眺めることができます。今の時代「まんが」といっても、それは子どもや若者だけのものでもないし、エンタメだけでもない。表現手法やテーマはいくらでも進化・深化するのだと思い知りました。